経団連は7月14日、スタートアップ委員会(南場智子委員長、永野毅委員長、髙橋誠委員長、出雲充委員長)をオンラインで開催した。南場委員長が講演し、わが国のスタートアップを取り巻く課題等を提起した。概要は次のとおり。
■ わが国のスタートアップの状況
わが国では、スタートアップの調達額、ベンチャーキャピタル(VC)投資のGDP比、ユニコーン企業数等、いずれの指標においても他の先進国と比して著しく低い水準となっている。1件当たりのIPO(新規上場株式)での調達額、大企業によるM&Aの件数も少ない。それゆえに、エグジットが小規模IPOに偏っている。
日本のスタートアップ・エコシステムにおいては、起業する人が少ない、成功するスタートアップが少ない、(成功したとしても)成功が小さくまとまり、世界で大勝するスタートアップがない、その結果、大成功のロールモデルがなく起業する人が出てこない、という負の循環が回っている状況だといえる。
■ スタートアップが牽引する日本経済の再生に向けて
世界の企業価値トップ10をみると、比較的新しいVC-backed company(VCの投資を受けて成長した企業)が8社ランクインしており、うち6社が米国企業である。
米国経済は、VC-backed companyこそが経済成長の主役となって非連続的な成長を遂げている。VC-backed companyが米国上場企業全体の企業価値総額の6割、雇用の4割、R&Dの8割を占める。
一方、日本の企業価値トップ10のなかに、VC-backed companyは一つも存在しない。スタートアップを生み出す土壌はここ数年で強化されてきたとはいえ、経済の牽引役を生み出すレベルには至っていない。
日本経済の再生のカギは、スタートアップが有するイノベーション、活力を取り入れていくことにある。世界で大勝する企業を10倍以上に、起業家の数を10倍以上にすべく、官民連携して取り組んでいくことが必要である。世界で大勝する企業を増やすためには、深い谷を支えるリスクマネー供給や世界で勝つ目線が重要である。また、起業家の数を増やすためには、起業をless riskyにする規制改革等や元のレールに戻れる社会の形成、人材の流れを大きく変える取り組みが重要である。
世界的なカネ余りやシリコンバレーの変化といった状況のなか、今こそ、日本全体もしくは国内の特区・拠点を世界で最もスタートアップフレンドリーな場所にして、国内と海外の一流の起業家を集めるチャンスである。また、フランスのように、大成功しているロールモデルを大きく宣伝し、起業という選択肢の人気を高める取り組みもあわせて行っていくべきである。
大企業ができることとしては、採用制度の見直し、人材の流動性確保、積極的なM&Aである。学業を終えてから1年、5年、10年後でも等しくチャンスが与えられ、起業という世界をのぞいてからでも、経験者プレミアムがついて元のレールに戻ることができるよう、新卒一括採用の見直しは急務である。また、大企業の優秀人材をスタートアップに押し出すさまざまな取り組みにも期待する。
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講演後の意見交換では、わが国のスタートアップ・エコシステム強化に向けた方向性について、各委員長らから賛同の声が寄せられた。
【産業技術本部】