21世紀政策研究所(飯島彰己所長)の中国研究プロジェクト(研究主幹=川島真東京大学大学院教授)は3月15日、オンラインセミナー「アフターコロナの一帯一路と日中関係」を210名の参加を得て開催した。同研究プロジェクトは、新型コロナウイルス問題が中国に及ぼす影響を分析している。新型コロナ対策と共産党統治、経済・財政をテーマとした1月のセミナーに続き(1月28日号既報)、今回は国際社会との関係を取り上げ、川島研究主幹をモデレーターとして中国の対外進出、リベラル国際秩序を検討した。概要は次のとおり。
■ 中国の対外経済進出と世界(大西康雄科学技術振興機構特任フェロー)
中国による資源の大量輸入が資源価格の変動幅を大きくするほか、途上国への中国製品の輸出拡大が相手国の工業化の遅延につながっている。一帯一路をめぐる批判に直面して、中国は、関係国との国際会議を開催するほか、援助基準の国際整合性を図るなどの対応を行っている。これは、米国の中国排除を避けるためでもある。日本企業のなかでも、中国市場に深く根付いている自動車や消費財・サービス産業については、中国国内で部品、材料などを調達し販売する「地産地消型」の事業展開が考えられる。一方、国際展開する企業については、中国を重視しながらも一国依存体制を見直す「グローバルサプライチェーン再編型」の事業展開が考えられる。
■ 開発協力への転換を目指す中国の対外援助最新動向(北野尚宏早稲田大学理工学術院教授)
コロナ禍関連の中国の対外援助は、すでに150カ国、7国際機関にも及ぶが、「新時代における中国の国際発展協力白書」(2021年1月)や「第14次五カ年計画」(21年3月)では、「可能な限り積極的に」「力の及ぶ範囲で」と若干トーンダウンした表現になっており方針転換の可能性がある。今後の課題は、低所得国の債務持続性への対応に加え、対外援助に対する中国国内の根強い反発を抑えるためのアカウンタビリティーの向上である。
■ 米中新冷戦構造にみる米中相互作用(小原凡司笹川平和財団上席研究員)
中国は、「中国製造2025」で強大な製造業の構築を掲げたが、米国の妨害を回避し自らに有利な標準を実装すべく、近々公表される「中国標準2035」に国際標準化戦略を盛り込む予定である。また、デジタル分野で主導権を握るため、衛星打ち上げや海底ケーブル敷設に注力している。さらに、軍民融合を推進しAIを用いた「智能化戦争」も視野に入れている。中国は、米バイデン政権が国内問題を優先し対中政策の決定に時間を要するとみており、その間に対米優位の獲得を目指すと考えられる。
■ リベラル国際秩序と中国(湯川拓東京大学大学院総合文化研究科准教授)
リベラル国際秩序の構成要素である「自由民主主義」「国際制度」「相互依存」の観点で現状を分析する。まず、権威主義と保護主義の台頭でこの三要素はほころび始めている。次に、中国であるが、(1)自国の安定を目的とする限定的な民主化(2)国際機構への積極的な参加の半面、自身を縛る枠組みは拒否(3)国家資本主義の維持――と分析される。今後、リベラル国際秩序は、共産党体制の安定のために中国が既存の国際秩序の何を受容し何に挑戦するかに影響される。イシューごとに「圏」が構成され、国際社会はこれら複数の「圏」が併存する状態になる。
<パネルディスカッション>
中国は、学術、科学など「客観的空間」をコントロールし、既存のルールを建前として、経済制裁という言葉を使うことなく合法的に経済に影響力を行使する。経済と安全保障は不可分となる。また、「双循環戦略」で日本企業はビジネスモデルの再構築を迫られる。日本の優位性は技術力と素材であり、中国がまねできない付加価値の高い分野を守る必要がある。中国の弱点は格差であり不満が限界に近づいている。富の再分配は最大の課題である。
【21世紀政策研究所】