21世紀政策研究所(飯島彰己所長)は1月14日、中国情勢に関する研究プロジェクト(研究主幹=川島真東京大学教授)の中間報告として、会員企業関係者200名の参加を得て「コロナ前後の共産党統治と中国経済」と題するオンラインセミナーを開催した。同プロジェクトは、2018年から国際社会における中国のプレゼンスを分析してきた。今年度は新型コロナウイルス問題が中国に及ぼす影響を主眼に置き、中国の国内動向と対外関係を中心に研究している。
共産党による国内統治に焦点を当て、末端の統治機構の実態、財政や社会保障問題、経済戦略の目標と課題を取り上げ、最新情勢を分析した。概要は次のとおり。
■ 新型コロナと中国の「社区」統治
(小嶋華津子慶應義塾大学法学部教授)
中国行政レベルの末端である「社区」は、治安維持を最大の目的とし、住民の動員と社会問題の解決などの機能を担っている。家庭内暴力抑制に向けた法整備、心理カウンセリングや医療・衛生サービスセンター設置なども行う。
新型コロナ対応では、党幹部指揮のもと監視カメラなどを活用するほか家庭訪問を実施するなどして、感染状況の管理、情報発信、宣伝工作を行い、感染拡大防止に大きな役割を果たした。中国独自の「社区」を通した統治は、新型コロナで加速度的に進み、国内外にアピールできる成功事例となった。
新型コロナが突き付けた世界共通の課題である「安全をとるかプライバシーや自由を守るか」の議論は、権威主義体制の中国でも行われている。この問題は、民主主義か権威主義かといった体制の違いだけではなく、テクノロジーで解決できる問題の峻別なども含めて論じるべきである。
■ 社会保障・財政をめぐる中央と地方の役割分担
(片山ゆきニッセイ基礎研究所准主任研究員)
中国では、社会保障は「社会の安定装置」の役割を担っているが、赤字が拡大傾向にある。中国の財政において社会保障関係費は最大の支出費目であり約2割を占める。全国社会保険基金の収支も厳しく、財政で補塡しているが、そのうち7割を占める「年金」が社会保障のなかで最も大きな問題である。
新型コロナ対策の一環として、財政出動と社会保険料の減免、減税を実施している。同時に、従来から地方政府の社会保障関係費の重い負担が問題になっていることから、地方政府に対する中央からの財政移転や年金の財源移転を前年から大幅に増加させており、新型コロナの影響が大きかった地域については、特に重点的に補塡している。
■ 中国の双循環戦略~分断される世界への対応
(丁可ジェトロ・アジア経済研究所副主任研究員)
新型コロナの流行を契機として打ち出された双循環戦略は、国内の格差解消と内需拡大を目指す「国内循環」と従来の経済政策である「国際循環」の集大成であり、その延長線上にある。中国は、双循環を促進する重要性を強調するが、「市場の開放」を進めるのか、サプライチェーンの国内完結である「自主可控(じしゅかこう)」を進めるのか、あるいは「グローバル連携」と「自主創新」のどちらに重きを置くのかというジレンマを抱えている。今後の中国経済には、双循環の扱い方次第で「地産地消(in China for China)の中国」か「世界の成長エンジンとしての開かれた中国」かという2つのシナリオがある。このどちらを取るかで将来像は違ってくる。
<パネルディスカッション>
モデレーターの川島研究主幹は、基調講演を「連続性」(新型コロナで従来の問題が露呈)「安定装置の創出と機能化」「統治の変容」(中央から末端・個別へ)「官民役割分担のあり方」の4点に総括した。そのうえで、安定装置は誰にとってのものか、厳しい財政下での途上国支援の行方、各省の年金負担の見通し、「社区」活動員の自発性や財源、国内循環と一帯一路との整合性、デカップリングによる日系企業活動の制約などについて議論を深めた。
【21世紀政策研究所】