経団連は1月25日、イノベーション委員会エドテック戦略検討会(小宮山利恵子座長)をオンラインで開催し、日能研の中学受験情報誌「進学レーダー」編集長の井上修氏から、「ICTと学びの変化~中高大の教育を中心に」をテーマに説明を聴くとともに意見交換を行った。説明の概要は次のとおり。
■ 休校時に拡大した学校のICT格差
新型コロナウイルスの感染拡大を機に、ICTの活用に積極的な私立中学校・高校と、取り組んでいない公立の学校との間に、ICT活用への意識や習熟度の面で格差が広がっている。多くの学校が臨時休校中だった2月末から5月末までの学校の対応について、私立学校は学び続けることと子どもたちの命を守ることを両立するための方法を必死に模索した。対応の成功要因は教員の主体性と各学校の予算であり、現場の教員が校長を動かし、校長が事務長を動かして機動的に予算対応した学校はうまく対処できた。一方、公立学校は学校内だけでなく行政も動かさないと予算が下りないため、すぐに対応できず、苦戦を強いられた。
休校時の対応が影響しているのか、受験生の志望校のデータをみると、2021年の私立中学校の受験生は増加傾向にあり、22年以降もその傾向は続く見込みであることがわかっている。高校や大学も含め、学校の難易度と休校時対応のよさは相関しておらず、人気の学校の序列も劇的に変化する見込みである。また、地方行政のICT活用への温度差も大きく、積極的に取り組む地方公共団体でさえもICTの導入止まりで、肝心のICTを活用した授業コンテンツまで話が十分に進んでいないところが多い。
■ オンラインの可能性と限界
オンライン授業は、台風などの災害による臨時休校時だけでなく、長期休暇や放課後の授業補習でもかなり利用が進んでいる。ある学校では、日本史の授業後にオンライン補習を午後7時から実施し、任意参加の形式でも多くの生徒が自宅から受講していた。教員の過重労働を招く可能性もあるが、労務管理が適切になされていれば、時間制約から学びが解放されるメリットを享受できる。
また、質問の共有機能によって、対面授業と同等かそれ以上のシナジーが生まれる。さらに、オンライン授業は集中力を要することから、集中力が必要な語学の授業で抜群の学習効果を発揮することもわかってきた。海外の学校とのオンライン授業によって、国内と海外の学位を安価に取得できるダブルディグリー制度がある国内の学校の人気が急上昇している。
一方、オンライン授業では、時間割が過密スケジュールになりがちなことから、休み時間を長くとり、オフラインで課題に取り組む時間をうまく組み入れることが重要である。また、陶芸窯などの特別な設備を利用する美術や体育、理科などの一部の実技授業、コミュニケーション能力や協調性などの非認知能力を鍛えるうえで有益なクラブ活動や行事活動などは、オフラインの方が望ましい傾向にあることもわかってきている。
今後も学習者と教員が、オンラインとオフラインの学びの事例やアイデアを共有しながら試行錯誤して、一人ひとりの学習者にとって最適な学び方を見つけていく姿勢が求められる。
【産業技術本部】