経団連は11月15日、都内で22日の第6回日本ウクライナ経済合同会議に先立ち、ウクライナ部会(朝田照男部会長)を開催し、外務省の林肇欧州局長、経済産業省の中川勉通商政策局審議官から最新のウクライナ情勢や日・ウクライナ経済関係等について説明を聞き意見交換を行った。説明の概要は次のとおり。
■ ウクライナをめぐる情勢
ウクライナは欧州で2番目に広大な国土や欧州とロシアの結節点であること、世界有数の農耕地帯であることや豊富な鉄鉱石・石炭等、高い経済的潜在性を有する。紛争が続く東部2州(ドネツク州、ルハンスク州)を除き、首都キエフはじめその他地域は平穏で安定を取り戻している。
当面の課題は東部2州の安定であるが、すべての当事者はミンスク合意(注1)を完全には履行しておらず、停戦違反が継続している。今後、米国の新政権がウクライナ情勢にどのようなインパクトを与えるか注視したい。
一方、内政面では、汚職対策をはじめ国内改革が進められている。日本はG7議長国として各国を束ね、改革の進展を促しているが、ポロシェンコ大統領を支える議会勢力は過半数ぎりぎりであり、国内改革の実現には困難を伴う。
エネルギー面では、欧州からの天然ガスの逆送によって安定的な確保に努めているのが現状であり、東部紛争地域に石炭が偏在する等、エネルギー供給源の多角化が課題となっている。
■ ウクライナの経済情勢および日・ウクライナ経済関係
ウクライナ経済は今年に入り、国内需要、工業品生産の回復等により改善の兆しがみられる。インフレ率も昨年の43%から今年は12%、来年以降は6~8%まで下落すると予測されている。
ウクライナ経済はロシア等との外交関係や内政に著しく影響を受けるが、外交・内政とも安定しつつあり、長期的にみてビジネス環境は改善の方向にある。汚職対策等の取り組みも相まって、世界銀行によるビジネス環境ランキングで、ウクライナは2013年の137位から16年には83位(注2)まで上昇している。
ウクライナの強みの1つは、他の中東欧諸国と比しても低い人件費である。低廉な人件費と高い教育水準・技術力を背景に、労働集約型の産業が成長する可能性を秘めている。他方、段階的に緩和されているものの、外貨取引規制が厳しいことは課題である。
最近の日・ウクライナ間の貿易額はウクライナ危機以降、大幅に減少しているが、人口や国土の大きさ、深化した包括的自由貿易協定の暫定適用開始(16年1月)を受けたEUとの今後の関係拡大の可能性を踏まえれば、市場としてのウクライナのポテンシャルは高いと考えられる。
日本政府としては引き続き、石炭火力発電所の効率改善支援や下水処理場改修事業など、エネルギー分野をはじめ、ウクライナに対する協力を進めていく。
来年は日本とウクライナの外交関係樹立25周年であり、同年を「ウクライナにおける日本年」と位置づけ、ウクライナ各地でさまざまな日本関連行事が開催予定である。
(注1)ミンスク合意=東部2州での停戦のほか重火器の撤収やドネツク州、ルハンスク州の一部の地域の自治拡大など13項目を規定
(注2)17年のランキングでは80位となり、引き続き改善傾向にある
【国際経済本部】