宇宙開発利用は成長戦略、安全保障、そして科学技術力の強化に貢献する取り組みであり、これまで経団連としても、宇宙開発利用の推進に向けて提言を重ねてきた。
政府の宇宙政策委員会のもとに設けられた宇宙産業振興小委員会が現在、「宇宙産業ビジョン」の検討を行っていることを踏まえ、経団連は15日、宇宙産業ビジョンの策定に向けた提言を取りまとめ公表した。
■ わが国宇宙産業の課題
わが国宇宙産業の課題は、ベースとなる政府の予算規模が欧米に比べ小さく、事業継続に必要な人材・投下資本の負担が重いことである。限られた予算のもとで、技術開発リスクが高い宇宙事業を進めているため、多くの企業は厳しい経営状況に直面している。
また、科学技術振興の視点が重視されてきた結果、開発と利用の連携が弱いことや欧米に比べて他産業からの参入が少ないことも課題である。
■ 宇宙産業ビジョンで目指す姿
今後新興国の宇宙開発利用の拡大やベンチャー企業・他産業の参入に伴い、国内外の競争が激化していくことが見込まれる。そうしたなか、わが国の宇宙産業は高い技術力、高い信頼性、そして高品質のサービスを源泉として、競争力を強化していくことが求められる。
このためには、他国よりも高いレベルの技術力の維持・強化に努め続けなければならない。こうして得た技術力と信頼性により、海外の需要を獲得するとともに、宇宙利用の拡大に向けて官民で連携していくことが重要となる。
衛星・ロケットの開発・製造等の宇宙機器産業の事業規模は、現在は3500億円前後であり、2015年に策定された現宇宙基本計画では10年で5兆円(年平均5000億円)が目標とされている。宇宙産業ビジョンでは、現計画を上回ることが望ましい(例=2030年度に年間7000億~8000億円)。また、衛星通信をはじめとする宇宙利用サービス等を含めた宇宙産業全体の規模(現在は8.2兆円)も大幅な増加を目指すべきである(例=2030年度に20兆円程度)。
■ 宇宙産業ビジョンの実現に向けて求められる施策
この達成に向けて、第1に、宇宙産業の競争力強化につながる政策を進める必要がある。具体的には、企業が成長につながる投資に踏み切れるよう、政府の宇宙関連予算を増加させ、衛星、ロケット、地上設備等を、長期にわたって安定的に調達することが求められる。また、企業のコスト削減意欲が適正に利益に反映されるよう、調達・契約制度を改善することも必要となる。
第2に、宇宙で得た情報を利用する市場を拡大していくために、政府衛星によるデータベースを安全保障上制限されるものを除き、企業が利用できるようオープンデータ化すべきである。同時に、ベンチャー企業の振興を通じて新たなサービスが生まれる環境を整備することが求められる。
第3に、技術力と信頼性を通じて海外の需要を獲得するため、官民一体で宇宙インフラの輸出に取り組んでいかなければならない。
こうした政策を推進するうえで、体制面では政府の宇宙開発戦略推進本部の司令塔機能の強化、法制面では産業振興に資する法制度の整備が求められる。
経済界としても、宇宙産業の振興に向け、引き続き高い責任感と使命感を持って取り組んでいく。
【産業技術本部】