経団連では、昨年4月に公表した「経済外交のあり方に関する提言」を踏まえ、グローバルな事業展開を支える環境を整備するため、世界各地に拡散するテロ等、治安情勢に関する確度の高い情報の収集に努めるとともに、政府・有識者等との意見交換を行っている。
その一環として、経済外交委員会(大林剛郎委員長、片野坂真哉委員長)は10月26日、都内で会合を開催し、公安調査庁の中川清明長官から、最近の国際テロ情勢について説明を聞いた。説明の概要は次のとおり。
■ ISILの現状―影響力の拡散と浸透
昨今、ISIL(イラク・レバントのイスラム国)の影響力が中東・北アフリカのみならず欧米諸国やアジアにも及び、世界各地でISILによる、またはその影響を受けたテロが多発している。
ISILが欧米諸国で「一匹狼」型テロを頻発させる一方、アジアでは既存のテロ組織が相次いでISILに忠誠を表明しており、関連するテロが急増している。こうした状況下、世界各地で邦人がテロに巻き込まれる被害も拡大している。
■ 欧米におけるISIL関連テロの動向
欧米では、上記のとおり組織的テロに加え、「一匹狼」型テロが増加傾向にある。2015年に4カ国9件であったテロが、今年は9月末時点ですでに6カ国15件に上っている。「一匹狼」型テロは入手容易な銃や刃物等によって単独か少人数で行われ、大規模な準備が不要なため、事前の発見が困難である。
今年6月にフロリダで発生したナイトクラブでの銃乱射事件では49人が死亡、53人が負傷した。米国での銃撃事件としては過去最多の死者数である。また、7月にニースで発生したテロ事件では、花火の見物客にトラックが突入し84人が死亡、300人以上が負傷した。これら2件の例にみられるように、たとえ単独犯であっても、条件次第で大量殺りくも可能となる。
■ 邦人に対する脅威と最近のテロ事件の特徴
近年の邦人被害は、15年に5件、11人死傷と、01年の米同時多発テロ事件以降最多の死傷者数を記録した。16年はすでに2件、死傷者は10人に上っている。こうしたなか、攻撃対象や場所、発生日などテロの特徴を把握することは、対策を講じるうえで極めて重要である。
まず、ISILは攻撃対象として、ISIL掃討の有志連合に参加する国々、イスラム教徒以外の「不信仰者」、ISILの思想に反する「背教者」などを挙げている。
最近では、特にナイフを用いた「一匹狼」型テロを推奨しており、その標的例として「夜間に閑静な道を帰宅途中の酔った不信仰者」「ナイトクラブや他の遊興場所付近の路地に一人でいる者」等を挙げていることから、こうした場所での行動には注意する必要がある。
テロが発生するおそれは常にあるが、ISILや欧米諸国の記念日に発生する傾向もみられる。「イスラム国」設立記念日(6月29日)や米同時多発テロ発生日(9月11日)、年末年始、欧米諸国の各種記念日、イースターやクリスマスなどキリスト教の記念日、さらに大型行事開催期間等については、特に注意が求められる。
【国際経済本部】