経団連は6日、東京・大手町の経団連会館で日本トルコ経済委員会(釡和明委員長、山西健一郎委員長)を開催した。外務省中東アフリカ局の高橋克彦参事官、経済産業省通商政策局の中川勉審議官から、最新のトルコ情勢や日トルコ経済関係等について説明を聞き、意見交換を行った。
説明の概要は次のとおり。
■ クーデター未遂事案後のトルコをめぐる情勢
7月15日夜に発生したクーデター未遂事案について、わが国は直ちに「トルコにおける民主的体制は尊重されるべき」旨声明を発出した。クーデターの試みは約半日で失敗に終わり、トルコ政府は事件の首謀者をギュレン運動(注)であると特定し、同運動との関係を有するとされる軍人や公務員、メディア、さらには企業等の関係者が解職や公職追放処分を受けるなど、相当の影響が生じている。
人権問題等をめぐって欧米との関係がぎくしゃくする一方、ロシアとは昨年11月のロシア軍機撃墜へのトルコ側の謝罪もあり、プーチン大統領がクーデター発生後直ちにエルドアン政権への支持を表明するなど、関係改善の方向に進んでいる。わが国との間では、9月の国連総会の機会に安倍総理とエルドアン大統領が会談し、貿易・投資のさらなる拡大を含む二国間関係強化の方向で一致した。
事案直後に発令された「非常事態宣言」は、「戒厳令」と混同されがちであるが、目的はギュレン運動を含むテロ組織メンバーを公的機関から一掃することにあり、同宣言と戒厳令とは異なる。そのポイントは、行政府が立法府を通さず、法律と同等の効力を有する法令を発布できることであり、トルコ政府は、同宣言により国民の基本的人権と自由が制限されることは一切なく、経済活動に影響を及ぼすこともないと説明している。
トルコにおける最近のテロの動向をみると、大きくPKK(クルド労働者党)とISIL(イラク・レバントのイスラム国)の2つが主なテロ実行主体である。PKKは政府との対話路線が停止された昨年夏以降、テロ攻撃を頻発させている。PKKは主として軍・警察施設を標的にする。一方、ISILはこれまでシリアとの国境付近でテロを行っていたが、最近はアンカラやイスタンブールで一般市民や外国人も対象としたテロを実行しており、注意が必要である。ただし、非常事態宣言発令以降、現地日本大使館や総領事館がみている限りでは、テロに対応するトルコ軍・警察の対応能力が著しく落ちたとは判断されていない。
■ 日トルコ経済関係
クーデター未遂事案後のトルコの経済状況については、さまざまな見方があり得る。
今般のクーデター未遂事案以前から、すでに2016年第2四半期の経済成長率は同年第1四半期の4.7%から3.1%へと低下していた。クーデター未遂事案直後、為替や株価等に影響が及んだが、すでに回復し、エルドアン政権は税制優遇・制度改革など各種施策を矢継ぎ早に打ち出すとともに、従来からの大型プロジェクトも推進している。
2010年ごろからの日本企業によるトルコ進出ラッシュは、テロなどの治安悪化もありすでに落ち着きつつあったが、クーデター未遂事案を機に一部で撤退の動きもみられたが、他方で、ほとんどの企業は基本的に様子見の状況であると思われる。
政府としては、引き続き現地の情報収集に努めつつ、大型インフラ案件の支援や経済連携協定(EPA)交渉の推進、ビジネス環境整備等の取り組みを通じて、日本企業のトルコでのビジネスを支援していきたい。
(注)ギュレン運動=トルコのイスラム教説法師でイスラム道徳に基づく市民運動の指導者であるフェトゥフッラー・ギュレンが始めた活動。奉仕を旨とし、教育や宗教観対話を重視する社会運動
【国際経済本部】