21世紀政策研究所(三浦惺所長)は5月13日、都内でセミナー「総選挙後の韓国・朝鮮半島情勢をどう見るか」を開催した。同研究所「日韓関係に関する研究」の深川由起子研究主幹(早稲田大学教授)をはじめとする3名の研究者が出席し、韓国の政治経済情勢や日韓関係の展望、朝鮮半島を取り巻く環境などについて解説した。説明の概要は次のとおり。
■ 閉塞感強まる韓国経済=「決められない政治」コストの顕在化(深川由起子・21世紀政策研究所研究主幹)
輸出依存度が高い韓国は中国のみならず新興国の経済低迷の影響を大きく受け、経済成長率の鈍化や企業経営の悪化などに苦しんでいる。
このため朴槿惠政権は構造改革を進めているが、その先行きは不透明である。生産性向上を目指した労働改革は、労働組合の反対により進まず、ようやく成立した「ワンショット法」による事業再編にも労働組合の反対が予想される。中小企業支援、ベンチャー育成政策の成果がまだ出ていないのも韓国の大きな悩みだろう。
総選挙での与党の惨敗、来年の大統領選挙に向けた政局への移行により、韓国は改革を強く推進できる政治状態ではなくなるが、労働改革、規制改革が進まないと、韓国経済が成長への反転機会をつかむのは難しいだろう。
■ 韓国国内世論の動向と日韓関係の展望(小針進・静岡県立大学教授)
韓国の野党は先般の慰安婦合意に批判的であったが、合意見直しは総選挙の争点にはならず、韓国世論は下火にもならず高揚もしないという状態だ。
朴大統領にとって慰安婦合意は数少ない成果であり、また、米国が合意を強く支持していることもあり、朴大統領が合意を覆すことはないだろう。今後、急進的な支援団体を政府がどのように説得するのかが課題である。
政治の影響を受けることなく韓国では日本への旅行がブームとなっており、2015年には過去最高となる400万人超の韓国人が来日し、今年も増え続けている。その一方で、韓国のメディアでは、日本はオバマ大統領の広島訪問により被害者のイメージを強化しようとしている、と相変わらず視野の狭い報道がなされている状況だ。
■ 朝鮮労働党第7次大会と北朝鮮情勢(平岩俊司・関西学院大学教授)
先日(5月6~9日)の朝鮮労働党第7次大会は、90年代初頭のソ連・中国と韓国の国交正常化以降の危機管理体制が終わったことを宣言し、真の金正恩体制をスタートさせるという意味合いがあったと思う。
党大会後は経済の建て直しが最も重要な課題であろう。改革開放政策を続ければ一定の経済成長はできるが、これ以上を求めると外国からの投資が必要になり、外交も重要な課題となる。
党大会では指導層の若返りは行われず、80歳代の中央委員が引き続き序列上位に残った。彼らには日々の政策にお墨付きを与える役割がまだあるのだろう。依然として金正恩の実力は不明だが、少なくとも若い指導者が思いつきで政治を行っている国ではない。
【21世紀政策研究所】