経団連の経済財政委員会(石原邦夫委員長、上釜健宏委員長)は7日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、大和総研の熊谷亮丸執行役員・チーフエコノミストから、世界経済の動向を踏まえたうえでの日本経済の見通しについて聞いた。説明の概要は次のとおり。
1.日本経済の見通しとマイナス金利の影響
日本経済は、生産・輸出が一進一退で推移し、「踊り場」局面が継続している。しかし、国内には、(1)在庫調整の進展(2)原油安(3)実質賃金の増加(4)2015年度補正予算の編成――等の好材料がそろい、先行きは緩やかな回復が見込まれる。一方で、中国を中心とした海外経済の下振れ懸念が強まっている。
日本銀行が1月に導入した「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」については、金融機関には日銀への国債売却益の増加、企業・家計には貸出金利、住宅ローン金利の低下を通じて、全体としてプラスの影響があると試算される。
2.アベノミクスの成果と課題
円高、高い法人税等、アンチビジネス的環境の是正を図るアベノミクスの基本的方向性は正しいが、金融政策に過度な負担がかかっている。改革のスピードアップに向け、ボールは政府に投げられている。
今後は、労働システム等での岩盤規制の緩和により、企業の国際競争力と労働生産性を向上させ、国民の所得を増加させるとともに、分配面では、地方、中小企業、若年層等へのきめ細かい配慮が必要である。
また、2017年4月に予定される消費税率の再引き上げは、現実的には先送りされる可能性が高いと考えるが、「万全の景気対策を講ずる」という条件付きで実施すべきだ。例えば、小規模なエコカー補助金・家電エコポイントの時限的導入、地方創生とタイアップしたレジャー・娯楽向けクーポン券の時限的導入等、耐久財消費、サービス消費の下支え策が考えられる。低所得者への所得面でのサポートも不可欠であろう。
3.日本経済のリスク要因と国際政策協調の必要性
中国経済の先行きは、日本経済の最大のリスク要因である。中国には約1000兆円の過剰融資と約400兆円の過剰資本ストックが存在するのに対し、約600~800兆円の財政出動余地があるため、短期的には財政出動による問題の先送りが可能と考える。しかし、中長期的には、巨額の不良債権の発生と大規模な資本ストックの調整への警戒が必要である。
また、米国の利上げに関して、ペースが緩やかであれば、新興国への悪影響は少ないとみられる。
ただ、当面の世界経済を下支えするうえでは、G7伊勢志摩サミットに向け、先進国を中心とした協調的な財政政策の発動など、国際的な政策協調が必要である。
4.株式市場の展望
長期的にみると、リーマンショックから12年ごろまで日本株は売られすぎていたが、現在は正常化の過程にある。短期的にみても、今年は年内に衆議院が解散されるとの観測も根強く、大型の経済対策が実施されるとの思惑から、株価の下値不安は徐々に後退し、底堅く推移するだろう。
【経済政策本部】