21世紀政策研究所(榊原定征会長、三浦惺所長)の上杉秋則研究主幹(フレッシュフィールズブルックハウスデリンガー法律事務所シニアコンサルタント)は3月31日、自由民主党の「独占禁止法審査手続の在り方に関する勉強会」の初回会合において報告を行った。
■ 自民党勉強会設置の背景
同勉強会は、公正取引委員会(公取委)の審査手続の在り方について議論する場として最近設置されたものである。最高顧問に自民党政務調査会競争政策調査会の原田義昭会長、相談役として保岡興治同調査会元会長(現在は顧問)が就任し、座長は競争政策調査会の磯崎仁彦事務局長、事務局長は阿達雅志参議院議員が務めている。
昨年12月に公取委から「独占禁止法審査手続に関する指針」が公表され、わが国の審査手続の透明性について一定の進展がみられたが、弁護士・依頼者間秘匿特権の保障や供述聴取への弁護士の立ち会いの容認、供述調書の作成方法および作成過程の透明性の確保など残された課題は依然として多い。
公取委は2年後に、必要に応じて審査手続全体を含めた指針の見直しを予定しているが、自民党の競争政策調査会で2年を待たずに早急にこれらの残された課題について議論を行うべきであるとの方針が示されたことを受け、今回勉強会が設置された。
■ 国際的に遜色ない審査手続とすることが課題
上杉研究主幹は、はじめに、日本の独禁法審査の特徴とその形成に至る背景について、次に、21世紀政策研究所の研究会「独占禁止法審査手続の適正化に向けた課題」が昨年9月に実施したEUでの調査、今年1月に実施した韓国での調査に基づいて説明した(調査報告書全文は21世紀政策研究所ウェブサイト参照)。
EUにおいては企業への報告命令を中心に審査が進められることや、武器対等の原則からEUや韓国では被調査事業者による証拠内容へのアクセスが広範囲に認められていることなど、日本が参考とすべき点があると指摘。わが国では、審判制度のもとで保障されてきた適正手続の保障が、審判制度の廃止により後退したことは明らかであると述べ、審査の透明性のさらなる向上や、社内調査・弁護士の活用が必要であるとの考えを示した。
また、先進国の多くでは、当局と企業およびその代理人が協力して真相解明を進めており、日本においても諸外国のように企業やその従業員が審査に協力するインセンティブを与える仕組みを導入することが考えられると述べた。
また、現在、公取委で議論が進められている裁量型課徴金制度との関係では、当局に裁量を与えなくても企業にインセンティブを働かせる仕組みとすることは可能であると説明。適正手続の保障を確保するためには、当局に裁量を与えることが前提となるわけではないとして、現在のように適正手続に問題がある制度では、公取委による外国の企業に対する審査は難しいと考えられ、国際的に遜色ない仕組みとすることが、わが国や公取委にとっても重要な課題であると指摘した。
なお、同研究プロジェクトでは、EU・韓国での調査結果を踏まえた最終報告書を近く取りまとめ、わが国の審査手続の改革の方向性について具体的に提言する予定である。
【21世紀政策研究所】