経団連は1月29日、東京・大手町の経団連会館で日本労働組合総連合会(連合、神津里季生会長)と懇談会を開催した。連合が神津会長以下新体制となって初めて行われた今回の懇談会では、「今年の春季労使交渉をめぐる諸問題」をテーマに意見交換を行った。
冒頭のあいさつで榊原定征会長は、デフレからの脱却はあと一息のところまできているとの認識を示したうえで、経済界として、設備投資と賃金への積極的な対応を通じて経済の好循環の実現に取り組むとの強い意向を表明した。このうち、設備投資については、抜本的な生産性改善に向けて、既存の生産設備のリノベーションを促進することの重要性を強調。賃金については、経済の好循環を回すという社会的要請を考慮しながら、収益が拡大した企業において、昨年を上回る「年収ベースの賃金引き上げ」への前向きな検討を呼びかけたと説明した。
一方、連合の神津会長は、デフレ脱却と経済の好循環実現に向けた労使による努力のなかで、賃金引き上げが大きなテーマであるとしたうえで、(1)持続性(2)月例賃金の引き上げ(3)広がり(4)底上げ――の4つのキーワードを重視した運動を展開すると述べた。
■ 今次労使交渉に臨む姿勢
両会長のあいさつの後、連合側が「2016春季生活闘争方針」を説明した。そのなかで、短期的なデフレ脱却ではなく、2度とデフレに戻らないためにも、月例賃金の引き上げが特に重要であるとして経営側の理解を求めた。
また、2016年は「底上げ・底支え」「格差是正」の実現に向けて、中小組合における大手準拠・大手追従からの脱却を初めて掲げるとともに、公正取引の実現に取り組んでいくと語った。
これに対して経団連側からは、「2016年版経営労働政策特別委員会報告」で示した経営側の基本スタンスについて説明した。経済の好循環を回すという社会的要請を十分考慮しつつ、適切な総額人件費管理のもと、自社の支払能力に基づいて賃金を決定するとの原則をあらためて示したうえで、各社の収益に見合った積極的な対応を呼びかけていることを紹介。自社の実情にかなった年収ベースの賃金引き上げ方法について、多様な選択肢のなかから見いだすことが労使に求められていると強調した。
■ 意見交換
続いて行われた意見交換では、連合側から、「サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正配分への取り組みは、わが国の経済の好循環実現に役立つ」との見解が示されたほか、(1)働き方改革・休み方改革への対応(2)非正規労働者の処遇改善と雇用安定への取り組み(3)女性の活躍推進――などに関する意見が出された。
経団連側からは、連合が月例賃金の引き上げにおいて「2%程度を基準」とする方針を設定したことについて、「産別や個別組合が実情に応じた要求を組み立てやすくなった」との認識を示した一方、中小組合の要求方針(総額1万500円以上を目安)に対して、実態から乖離した高い水準であるとの指摘がなされた。
このほか、(1)離職率の高い若い世代がやりがいを持って働ける環境の整備(2)高度プロフェッショナル制度の導入による専門性と労働の価値を高める取り組みの推進(3)グローバル化の進展による多様な人材の活躍推進の必要性――などについて発言があった。
閉会あいさつにおいて連合の神津会長は、よりよい経済社会を実現していくための建設的な議論ができたと総括。榊原会長も、有意義な意見交換であったとの所感を述べるとともに、これから始まる今次交渉・協議において、企業別労使による真摯な議論が行われることへの期待感を示し、会合を締めくくった。
【労働政策本部】