21世紀政策研究所(榊原定征会長、三浦惺所長)は12月9日、大阪市内で「今こそ必要!経営陣に求められるBEPS対策」をテーマにセミナーを開催した。
BEPSとは、「税源浸食と利益移転」を意味し、グローバル企業が税制の隙間や抜け穴を利用した節税対策により税負担を不当に軽減するとともに、実際に経済活動が行われている場所での課税から免れていることが問題とされている。ここ数年、OECDを中心にBEPSに対抗する観点から、国際的な課税ルールの調和を図る方向で議論が進められており、昨年10月5日にはOECDから「BEPS最終報告書」が公表されたところである。同研究所では、すでに3年にわたり、経団連税制委員会と緊密な連携を取りながら、青山慶二研究主幹(早稲田大学大学院教授)を中心に国際租税研究会で精力的に検討を行い、最終報告書に日本経済界の考えを反映させるなどの働きかけを繰り返し行ってきた。
BEPSに関する議論は、海外の一部の多国籍企業の節度を欠いた節税対策から端を発したため、日本企業にとっては「対岸の火事」との認識があるが、最終報告書の内容は、これまでの国際租税の枠組みを大きく変え、日本企業に対しても重大な影響を与えるものになっている。単に税務担当者のみが把握しておけば足りるという問題ではなく、経営陣自らコーポレート・ガバナンスの一環として、海外子会社などの税務リスクについて、対応していく必要がある。
そこで、セミナーでは青山研究主幹から、経営陣に求められるBEPS対策をわかりやすく説明した。第1部では、BEPSの概要とBEPS対策措置の導入の経緯、第2部では、最終報告書の具体的内容について解説した。
青山研究主幹は、最終報告書の内容に照らし、新たな枠組みを踏まえたグローバルビジネス管理を充実させる必要性を訴えた。特に、日本企業を親会社とする多国籍企業には、海外子会社に裁量を広く与えている企業が多く、本社での中央管理システムを採用していない場合もある。しかし、新しい枠組みでは、親会社のみならず海外子会社の税務情報も、親会社が課税当局に開示する必要があるため、税務ガバナンス体制を強化する必要がある旨指摘した。
質疑応答では、参加者から、「今回の新たな枠組みでは、あくまでも情報収集のために海外に設けている出張所が、今後事業活動の拠点であるとして、課税されるおそれがあるか」との質問が出された。これに対し青山研究主幹は、「海外の出張所の人員が増えていたりすると、海外の課税当局から、事業活動の拠点であるとして課税される可能性がある。しかし、それを防ぐためにも、あくまでも情報収集のための場所であるなどが明らかになる文書を作成するなどして、課税当局に対抗できるよう準備をしておくことが重要である」と回答した。
最終報告書は公表されたが、BEPS対策はこれで終わりではなく、今後も各国ごとのBEPS関連法制度の整備、実施のプロセスについてもモニタリングをしていくことが重要であり、同研究所では、今後もBEPS対策に関する取り組みを継続していく。
【21世紀政策研究所】