夏季フォーラムの第2セッションでは、石破茂地方創生担当大臣から「地方創生の課題と展望」をテーマに講演を聞くとともに、意見交換を行った。
講演の主なポイントは次のとおり。
1.「静かな有事」
現在、わが国は「静かな有事」にあると思う。「静かな有事」とは、人口の東京一極集中が進み、人口減少が加速して、わが国が自然と溶解していく現象を意味する。わが国の現在の人口は約1億2000万人であるが、国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、このまま何もしなければ、2100年には約5000万人、2500年には約44万人、3000年には約1000人になってしまう。現状を放置すれば「かつて日本という栄えた国がありました」といわれるようになっても不思議ではない。
これまでの政府の主な地方活性化政策には、田中角栄首相の「日本列島改造論」、大平正芳首相の「田園都市構想」、そして竹下登首相の「ふるさと創生」があり、どの政策も高い見識を持って執り行われた政策であるが、安倍内閣が進める「地方創生」では、この政策が失敗すると国がなくなるという強烈な危機感を抱きながら取り組んでいるという点で、これまでとは異なる。
2.地方と都市部をめぐる構造的な課題
地方をめぐる現状は、いまだかつてない事態に陥っているといえる。出生率が低迷し、人口減少が止まらないだけでなく、東京への一極集中が進行するとともに、大都市圏では高度経済成長期に流入した人の高齢化が急速に進行している。かつて公共事業や企業誘致により地方の人口が増加し続けた時期もあるが、今のわが国の経済構造や財政状況等を考えると、過去と同じ政策を進めることは困難である。工場など生産活動の主役であった地方が衰退しているのに、消費を担う都市圏、ひいてはわが国全体の経済が再生することは考えられない。東京と地方の両方を支えるプラスサムの政策を実行していくことが政治の責任である。
3.地方創生の成功に向けて
現在、政府では、地方創生の一環として地方へ新しい人の流れをつくる支援策に取り組んでいる。2014年に行った政府のアンケート調査の結果によると、東京に住んでいる50代男性の約半数が地方居住を希望しており、今後、地方への移住が進む余地はある。政府としても地方居住を促進する取り組みとして、「日本版CCRC(高齢者が健康時から生涯学習や社会活動に参加できる地域共同体)」の創設や、地方大学に通う大学生が地元に定着してもらえるような奨学金制度の整備等を進めている。
また、企業が東京に一極集中している現状を緩和するため、「SHIFT!」をキーワードに東京から本社機能の地方移転を促進するための支援措置を打ち出している。同時に、政府の一部機関の地方移転も検討しており、現在、地方移転が効果的な政府機関を各都道府県から提案してもらっている。このように出生率の低い東京から出生率の高い地方への人の流れが生まれることは、人口減少対策にもなる。
今後の地方創生に関する展開として、企業の本社機能の一部移転や地方で都市圏のプロフェッショナル人材が活躍するための具体的な取り組み等について、政・官・民で話し合う「地方創生実現パートナーシップ会議(仮称)」を設けたいと考えている。経団連にも、この会議への参加と率直な意見交換をお願いしたい。
最後に、地方創生の成功は、わが国の次世代に対して、われわれに課された責務であり、課題先進国として、同じく少子高齢化や人口減少が加速する世界の国々に対して果たすべき責任でもある。政府としても地方創生の成功に向け、全力を尽くしたい。
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講演後は、地方創生における企業の人材活用や、男女の働き方の見直し、国家戦略特区の拡大等について活発に意見交換が行われた。
【政治・社会本部】