経団連事業サービス(榊原定征会長)は2月23日、東京・大手町の経団連会館で第27回経団連昼食講演会を開催し、日本経済研究センターの岩田一政理事長から「今後の日本経済の見通し-成長加速に向けた課題」をテーマに講演を聞いた。講演の概要は次のとおり。
■ 日本経済の短期見通し
日本の成長率について、2014年度はマイナス0.9%、2015年度は1.5%、2016年度は1.3%を見込んでいる。アベノミクスが始まった2013年度以降の3年間の平均成長率は約1%であり、「日本再興戦略」の2%の中長期目標には届いていない。一方、消費者物価上昇率は、2014年度は0.9%、2015年度は0.2%、2016年度は1.1%を見込んでおり、政府見通し、日本銀行見通しを大幅に下回ると予測している。
2014年度の成長率がマイナスになった原因について、4月の消費税率3%引き上げ後、事前の予想を上回る消費と住宅投資の低迷が生じたことがある。消費税増税後の落ち込みが大きかった理由としては、消費税増税と円安に伴う輸入物価上昇(交易条件悪化)による実質所得減少が重なったことが考えられる。また、非正規就業者の傾向的増加により所得制約下にある家計の比率が上昇したことや、2014年度は財政政策が引き締め気味となったことも挙げられる。
今後再びマイナス成長に陥ることのないよう、2017年4月に予定されている、さらなる2%の消費税率引き上げに際しては、毎年1%ずつの引き上げ、思い切った法人税引き下げ、税制改革も含めた子育て支援の強化といった対策を講じるべきである。
金融政策については、輸入物価上昇率の減速により物価上昇率が1%を切る可能性が高くなったことや、原油価格の急落によるインフレ期待が低下したことなどを背景に、2014年10月に日本銀行は追加緩和を実施した。今後さらなる緩和を行うかどうかが論点だが、原油価格の下落は今後も中長期的に続く可能性があり、IMFも提案しているとおり、フォワード・ガイダンス(中央銀行が金融政策の先行きを明示する指針)を強化すべきである。
■ 人口減少の歯止め
成長戦略について、日本は成長率を2%に乗せていくことが重要である。1人当たりGDPの水準と成長率をプロットすると、発展段階の低い国はより勢いよく成長し、各国の経済水準は収束していくことが知られている。この関係から考えられる成長率を日本は下回っている。アメリカの経済水準に収束する経路に沿って成長させることが望ましく、そのために2%強の成長が必要である。
経済成長は、労働投入、資本蓄積、全要素生産性の三つの要素で成り立つが、人口減少は、労働投入の減少のみならず、貯蓄率の低下によって資本蓄積率もマイナスとなるうえ、生産年齢人口の減少によって、経済全体の生産性にマイナスの影響を与える。人口減少を放置すると、わが国の人口は2060年には8674万人になるが、日本経済は2040年代にはマイナス成長に陥るとされ、縮小スパイラルに陥るリスクがある。日本の貯蓄率はかつて先進国のなかで最も高かったが、2013年度の家計貯蓄率は、少子高齢化の進展により、マイナス1.3%になった。先行きも中期的にマイナス5%になると予測される。
日本経済研究センターは、人口減少に歯止めをかけ、百年の計で9000万人の人口規模を維持すべきであると2014年2月に提言した。そのための一つの案として、8兆円程度かけて、フランス並みの子育て環境をつくることを提言している。また、毎年20万人程度の移民受け入れを2050年までに実現することを提言した。一方、政府の「選択する未来」委員会は、2060年の時点で1億人の人口規模を維持し、2030年初めには出生率を1.4から2.1まで引き上げることを提案している。
■ イノベーション
2000年代以降、日本の経済全体の生産性の水準とその伸びは、最先進国への「収束経路」から大きく下方に乖離した、異端の国になっている。この原因は、生産年齢人口の減少、グローバルな情報通信革命による生産性加速が実現しなかったこと、多様性(女性、外国人、第三の開国)がイノベーションや経済活性化に有用であることの認識が遅れたことにあり、イノベーションを促進していくことが重要である。
また、「オープン・イノベーション」(外部の技術やアイデアを活用することで革新的な商品やビジネスモデルを生み出すこと)の指標をみると、日本はOECD諸国のなかで第18位である。大学を人材創出の場とし、イノベーションの担い手にする、ベンチャーをヒト、モノ、カネの3面で支援する、企業による大学ベンチャーへの出資金に対する税額控除制度を活用するなど、「オープン・イノベーション」を進めていくことが必要である。
【経団連事業サービス】