経団連は4日、東京・大手町の経団連会館で「運送法制の見直しに関する説明会」を開催し、法務省民事局の松井信憲参事官、山下和哉局付から、商法の運送・海商法制の見直しに向けた検討状況について説明を聞いた。
説明の概要は次のとおり。
1.見直しの経緯
現行商法の運送・海商分野は、1899年(明治32年)に商法が制定・施行されて以降、100年以上見直しがされていない。こうしたなか、昨年2月に見直しに向けた検討を求める法務大臣の諮問を受けて、同年4月から「法制審議会商法(運送・海商関係)部会」および「旅客運送分科会」において審議が行われ、中間試案が近々取りまとめられる予定となっている。
2.中間試案における改正項目の例
(1)商法制定以来の社会・経済情勢の変化への対応
複合運送(陸上運送、海上運送または航空運送のうち、二つ以上の運送を一つの契約で引き受ける物品運送契約)は、実務上は一般的に行われているものの、商法には規定が存在しない。そこで、複合運送契約に関する新たな規律を新設し、基本的には、運送品の滅失・損傷の原因が生じた区間に適用される規律に従うこととする。例えば、トラックによる陸上運送の区間で滅失等が発生した場合は商法、国際海上運送の区間で発生した場合は国際海上物品運送法を適用する方向で議論が進んでいる。
(2)荷主、運送人その他の運送関係者間の合理的な利害の調整
商法において、荷送人が運送品に危険物が含まれること等を運送人に申告する義務について規定はないが、危険物の取り扱いの重要性に鑑み、通知義務に関する規律を新設する。また、この通知義務に違反した場合の効果については、荷送人に、(1)無過失責任を負わせる案(2)過失責任を負わせる案(荷送人において、危険物に関する情報を通知しなかったことにつき過失がなかったことを証明できない場合には、荷送人が責任を負うという案)――の二つの案が検討されている。さらに、運送品が滅失等した際に運送人が負う不法行為責任については、運送人の契約責任を減免する旨の規定(商法第580条等)の趣旨を踏まえ、規律を新設して不法行為責任についても同様に減免する案と、特段の規律を設けないとする案の二つが検討されている。
(3)海商法制に関する世界的な動向への対応
船舶の衝突により生じた債権のうち、物損に関するものについては、国際条約にあわせ、事故発生日から2年の短期消滅時効に服することとし、人損に関するものについては、民法に委ねることとすることが検討されている。また、船舶所有者における海洋汚染の防止または軽減のための措置を促進するため、海難救助に際し、環境損害が発生するおそれがある場合には、救助者に特別補償の支払請求権を認める方向で検討されている。
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その後中間試案は、11日の法制審議会商法(運送・海商関係)部会で取りまとめられた。これを受け、今月下旬ごろにパブリックコメントに付され、そこで寄せられた意見も踏まえながら、さらに検討が行われる予定である。改正法案については、早い場合には、来年の通常国会に提出される可能性がある。
今回のパブリックコメントに際し、関係の各業界団体が中間試案とともに公表する補足説明も参照しながら、実務の実態を踏まえた検討を行い、必要に応じて法務省に意見を提出していただきたい。
【経済基盤本部】