東京大学政策ビジョン研究センター健康経営研究ユニット特任助教 ヘルスケア・コミッティー会長 |
古井祐司 |
健康状況など職場の特徴を可視化し、関係者で共有することが、健康経営の実効性を高める起点であり、それを可能にするのが「コラボ・ヘルス」(事業主と医療保険者との協働)であることを前回述べました(12月5日号参照)。それでは、実際に効果を上げている企業の取り組みはどのようなものでしょう。今回から参考事例を紹介していきます。
■ 組織として取り組む
大和証券グループは従業員が1万3000人、全国に120支店を有する金融系の企業です。従来、サービス業では一般に、従業員の健康管理は個々人に任される傾向にあるようですが、同社では会社として取り組みました。
同社の健保組合に蓄積されたレセプトや特定健診のデータから、同社では生活習慣病が医療費の上位3疾患を占め、脂質や血糖などの値が高い従業員が決して少なくないことがわかりました。このデータ分析が、仕事を優先し自分の健康管理を後回しにしがちな働き盛りの従業員には、会社が積極的に働きかけをする必要性を強く感じるきっかけになりました。また、同社では人事部・健保組合・産業保健スタッフの三位一体で取り組んだことが、成果に結びつくポイントになりました。
■ まずは地ならし!
同社では「従業員に自らの健康を意識してもらうことが対策の効果をあげる基本になる」という考えのもと、全従業員に対して働きかけることを徹底しました。毎年の健診データに基づく「情報提供」を、病気になっていない人も含めて全員に行ったのです。その際、本人の健康度(検査値など)を同性・同年代での順位で示したり、同じリスクで倒れた有名人からのメッセージを提示したりするなど、従業員が健診結果を「自分のこと」としてとらえやすいような工夫をしました(図表参照)。さらに高リスク者には、医療機関への受診を強く勧める「有所見者受診確認票(イエローペーパー)」も発行しました。
その結果、同社の従業員は、年齢が1歳上がって健康度が悪化する割合が、取り組み前の8.7%から6.3%に減少し、大企業30社の平均(7.8%)を下回りました。成果が上がった背景には、前述の「情報提供」による意識づけだけでなく、全社挙げてのウオーキング・キャンペーンや社員食堂での啓発イベントなどから、従業員が会社の本気度を感じたこともあります。全員への意識づけという地ならしによって、対策への感度や効果が上がりやすくなったことがうかがえます。
また、健診直後だけでなく年間を通じてウェブでの「情報提供」も行っています。このプログラムへの参加率は約50%で、ウェブで提供するプログラムとしては極めて高い参加率となりました。検査値が極めて高い重症者では「イエローペーパー」の提出(医療機関への受診)が100%となり、例えば高血圧の人数は3分の1に減少しました。現在、同社では健康行動の継続に向けて、2歩目が踏み出されたところです。