経団連事業サービス(米倉弘昌会長)は10月24日、東京・大手町の経団連会館で第8回「経団連 Power Up カレッジ」を開催し、三菱重工業の大宮英明会長から「三菱重工の新たな挑戦」をテーマとする講演を聞いた。講演の概要は次のとおり。
■ 近年の経営課題
当社は、(1)船舶・海洋(2)原動機(火力・原子力・風車等)(3)機械・鉄構(製鉄機械・肥料プラント・交通システム等)(4)航空・宇宙(5)汎用機・特殊車両(フォークリフト等)(6)冷熱(エアコン)(7)工作機械――など、700以上の製品を擁する。
近年、公共投資等の内需の大幅な減少に伴い、当社も原動機を中心に海外輸出を拡大し、売上の5割を海外売上が占めるが、グローバル展開の遅れがあり、競合他社に比べて売上・営業利益ともに低いという問題を抱えていた。その背景には、各事業間の連携不足や事業の選択と集中を決断するための評価基準が不明確であること等があった。また、社長直属で事業所・事業本部が両輪となるマトリクス型の組織体制(例えば、船舶・海洋事業は4事業所で競合)のもと、事業所の独立性・競争意識が強いため、事業別の意思決定が一気通貫で行いにくく連携も進まないなど、膨大な製品群と幅広い技術力を持ちつつも、総合力の発揮を阻害するさまざまな課題があった。
■ 改革の道 ― 自前主義からの脱却
そこで、2010年に「自前主義からの脱却」を掲げ、他社との戦略的なアライアンスやM&Aなどを活用して事業の統廃合を進め、事業規模5兆円の高収益企業への飛躍を図ることを打ち出した。当社は製造業として、市場開拓から営業・開発・調達・製造・検証・アフターサービスまで、あらゆるプロセスのバリューチェーンを持つが、各プロセスについて、創造する付加価値と自他の保有能力の最適な組み合わせによりウィン・ウィンの協業を構築していった。
例えば火力発電事業における日立との事業統合は、日本の製造業再生のフラグシップともいえる。また、製鉄機械事業やフォークリフト事業でも他社と統合会社を創設するなど、各分野で世界的に競合できる体制を整えた。また、インドの火力発電では、現地の総合重電機メーカーL&T社との合弁により、当社の技術力や資金力と現地のコネクション・販売力・生産力とを活用するかたちで、事業展開を進めている。
その一方で自前の技術の強化・充実を進め、例えばガスタービンの開発や交通システムの実証施設に先行投資し、新技術の検証と製品の信頼性向上につなげている。このほか、製造業としての海外進出のノウハウや実績を活かし、例えばオマーンの肥料プラントでは、金融子会社を通じて資本参加し、プラントのオペレーションにも参画するなど、製造・建設というコアビジネスにとどまらず、アフターサービスやオペレーションなど、バリューチェーンの下流にも進出し、利益拡大を図っている。
■ 組織設計は科学である
自前主義の脱却という「遠心力」を用いる一方、組織としてばらばらにならないための「求心力」を保持する組織設計が必要となる。私は、組織設計は科学であり、科学的な組織と「視える化」を重視した仕組みを設計すれば、自律的な組織運営は可能と考えている。
そこで、11年にマトリクス制から事業本部制へ移行した後、全事業を64のSBU(Strategic Business Unit)に分解し、個別に事業性および財務健全性の評価に基づいて格付けし、使用可能な投下資本の上限と要求リターン(利益目標)を設定し、事業評価の明確化を図った。
さらに13年10月から(1)エネルギー・環境(2)交通・輸送(3)防衛・宇宙(4)機械・設備システム――という四つの事業ドメインに集約することで、事業本部間の調整の手間や機能の重複・人員の分散などの課題を解決し、それぞれのドメインごとの強みとシナジーを追求している。同時に、顧客へのワンストップサービスの強化や全社最適視点など横串機能の強化も図り、組織設計の全体像がおおむね完了したところである。昨年度は事業計画の利益目標は達成しているが、受注・売上のさらなる拡大が今後の課題である。
組織の運営の面では、トップダウンで行うことと、構成員の納得を得ることが大事である。そこで、各ユニット長の責任と権限の明確化と一致を図り、同時に暴走しないようなけん制機能も組み込む工夫をしている。リーダーには、自らできることと他に任せることの峻別が必要であり、そのためにも自律的な経営を可能とする科学的な組織設計が重要である。
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