経団連の経済政策委員会企画部会(村岡富美雄部会長)は、6日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、経済産業研究所の森川正之理事・副所長から、「成長政策の経済分析」をテーマに説明を聞いた。概要は次のとおり。
1.経済成長と生産性
短期の景気が需要サイドで決定されるのに対し、中長期的な経済成長は労働・資本・全要素生産性(TFP)の供給サイドが決定する。今後、労働参加が進展する想定のもとでも、日本の労働力人口は減少することが確実である。経済成長を続けるためには、1990年代以降落ち込んだ生産性の向上が欠かせない。
生産性に関する研究から、多くのことが明らかとなっている。一つは、同一産業内でも企業間で大きな生産性の格差が存在することである。したがって、生産性の高い企業の市場シェア拡大や、非効率な企業の退出といった「新陳代謝」は、生産性向上に大きな役割を担う。また、人口密度が高い市区町村に立地する事業所ほど生産性が高くなることもわかっている。これは、人口が減少するなか、コンパクトシティーなど稠密な都市構造を維持していくことの重要性を示唆している。人的資本の面からは、90年代以降、生産性上昇のうちの大きな部分は労働の質の向上によるものである。効果が出るまで時間はかかるが、教育を通して人的資本の質を高めることが重要である。
2.政策と経済成長の関係
今般の成長戦略には、成長率を高めるうえで、経済学的な視点からも有効と考えられる政策が盛り込まれている。例えば、TPPの締結は3兆円程度の効果があると見込まれており、10年で効果が出尽くすと仮定すると、年率で0.1%弱成長率を押し上げる。また、法人税率を10%引き下げると、資本コスト、投資のハードルレートが低下するため、設備投資が増加し、資本ストックの伸びが高まる。これも年率換算で0.1%弱成長率を押し上げることとなるだろう。成長戦略には、成長率低下を抑える政策も含まれている。原発ゼロは年率0.1%弱成長率を押し下げると見込まれているが、安全性が確保された原発の再稼働が実施されるならば、この引き下げ要因が解消される。日本の潜在成長率が年率0.5~1%程度といわれるなか、年率0.1%押し上げという効果は、決して小さくない。
政治の安定も経済成長に大きな影響を及ぼす。政治・政策の不確実性は、企業や家計の予見可能性を低下させ、投資計画や消費計画の策定を困難にする。日本の上場企業を対象に実施した調査によると、通商政策、財政、社会保障制度の先行きの不透明感が高い。これらの政策の先行きに対する不透明感を払拭すれば、企業の前向きの行動を促し、経済成長率を高めるうえで大きな効果があるだろう。
【経済政策本部】