経団連(米倉弘昌会長)は15日、東京・大手町の経団連会館で約400名の参加者を得て、第12回企業倫理トップセミナーを開催した。
開会にあたり米倉会長は、「不祥事を未然に防止する企業風土の構築において、何よりも重要なことはまず、経営トップ自らが高い倫理観をもって企業経営にあたることであり、グループ企業全体における企業倫理の徹底について、強くメッセージを発信していただきたい」とあいさつした。
引き続き麗澤大学前企業倫理研究センター長の梅田徹教授が「グローバル時代の企業倫理と人権」と題する講演を行った。
講演概要は次のとおり。
■ ハード・マーケットとソフト・マーケット
近代経済学では、経済主体が自己利益追求を唯一の動機とすることを基礎とした市場(ハード・マーケット)を定義し、そのうえに経済諸理論が確立されてきた。しかし、現実の経済主体の動機は多様であり、さまざまな動機・目的を持ち行動する現実の社会・経済的な主体を概念化した市場(ソフト・マーケット)に、企業の社会的責任やソーシャル・ビジネスを位置づけることが適当である。「企業と人権」もこのソフト・マーケットに位置づけられるテーマである。
■ 「企業と人権」問題のグローバルな展開
2000年に発足した国連グローバル・コンパクト以来、ISO26000、OECD多国籍企業行動指針(改訂版)、企業および人権に関する指導原則など、「企業と人権」にかかわるイニシアティブ、人権はグローバルな関心を集める主要なテーマの一つとなっている。とりわけ、影響が大きかったのは、国連事務総長特別代表ジョン・ラギー・ハーバード大学教授が提案した「保護・尊重・救済フレームワーク」であり、このなかで「人権デュー・ディリジェンス」(注)は、人権を尊重すべき企業の責任の中核的な概念として位置づけられている。
(注)人権デュー・ディリジェンス=企業の人権リスクを特定、防止し、対処するプロセス
■ 外国公務員贈賄防止分野における動向
米国やドイツでは海外贈賄事件について積極的な摘発を行っており、域外管轄権の適用により、米国の法律に基づいて日本企業が摘発されるケースも少なくない。こういった状況にもかかわらず、海外展開する日本企業の従業員に、贈賄行為による刑事的制裁の可能性が正しく認識されていない現状がある。企業においては、親会社が影響力を行使して、グループ内の子会社も含め正しい認識を持てるよう、体制整備を行う必要がある。
人権分野においても、外国公務員贈賄防止の分野にみられるように、域外管轄権の適用の動きがあったが、今年4月に米国の連邦最高裁においてその適用可能性が否定的に判断された(キオベル判決)。同判決により今後、域外管轄権の適用には一定の制限がかかるとはいえ、完全に否定されたわけではない。引き続き警戒する必要がある。
■ 企業に求められる対応
すべての企業、とりわけグローバルに事業展開する企業は、人権に関する自社の方針や取り組みをレビューし、リスクの高い国や地域、産業分野で操業する企業は、人権デュー・ディリジェンスを実施してほしい。また、グループ全体の取り組みについてもレビューし、グループ企業において人権の取り組みが遅れている場合には、積極的に影響力を行使してほしい。このような取り組みを通じ、企業が人権を尊重する企業文化をつくり上げることを一つの目標として、プロアクティブな姿勢で取り組むことを期待したい。
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講演を受けて、閉会あいさつのなかで三宅占二企業行動委員会共同委員長は、「本日の梅田教授のご示唆を踏まえ、グループ企業に対するガバナンスの強化や従業員教育の徹底など、企業倫理のさらなる充実に向けて、高い倫理観とリーダーシップをもって取り組んでいただきたい」と参加者に呼びかけた。
【政治社会本部】