経団連は3月20日から28日にかけて、ブリティッシュカウンシルの全面的な協力のもと、永里善彦・産業技術委員会産学官連携推進部会長を団長とする英国高等教育調査ミッションを派遣した。わが国では、イノベーションの源泉である人材の育成に向けて大学・大学院改革の必要性が高まっている。そこでミッションでは、ロンドン大学、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン、ケンブリッジ大学、ブリストル大学、オックスフォード大学、サウサンプトン大学などを訪問し、英国高等教育の現状や改革の取り組みを聞いた。概要は次のとおり。
■ 財政危機下における改革の推進
英国政府は2010年10月、「包括的歳出見直し」を発表し、向こう4年で、高等教育を所管するビジネス・イノベーション・技能省の予算の25%削減、高等教育機関の運営費交付金の40%削減を決定した。その後、2012年からの授業料引き上げ容認に伴い、多くの高等教育機関で授業料が年9000ポンドに高額化した。こうしたなか政府は、高等教育機関に対し、イノベーション創出に向けた、より競争促進的な制度の導入に向けた動きを強めている。
■ 評価に基づく選択的なファンディングの実施
ファンディング(公的助成制度)は、非省庁型公的機関と呼ばれる機関が実施する。総額は政府が決定するが、個々の配分についてはこれら機関が独立性をもって実施する仕組みをとっている。これにより関係省庁による個別大学の運営への介入・影響力行使を回避することを可能にしている。
ファンディングは、運営費交付金と研究助成金の「デュアル・ファンディング・システム」をとっており、おのおのに評価の要素を採り入れ選択的な配分を行っている。
(1)運営費交付金
運営費交付金は、イングランド高等教育財政カウンシル(HEFCE)が教育と研究を別々に評価したうえで、各高等教育機関の学長に使途を一任する一括助成金(Block Grant)として交付している。教育資金は、より独立性の高い機関である高等教育質保証機構(QAA)による評価も踏まえて配分している。研究資金は6年に一度、研究の質を評価したうえで傾斜的に配分しており、一部高等教育機関による寡占化が進行している。また、研究資金の評価には2014年から新たに「研究の社会・経済・文化へのインパクト」が導入されることとなったため、各高等教育機関では「インパクト」を証明するため、従来以上に産学連携に取り組む動きが顕著になっている。(2)研究助成金
研究助成金は、分野ごとに設けられた研究会議(RC)が、独自の戦略と方針のもと案件を採択し、研究者に資金を配分している。RCは、純粋基礎研究のみならず応用研究等も対象としており、企業提案も歓迎している。採択にあたっては、大学・研究所・産業界の専門家をバランス良く配置した学問分野ごとの評価委員会で評価していることも特徴である。近年、「インパクト」の見えやすいプロジェクトが採択される傾向にある。
■ ガバナンスとリーダーシップの変化
英国の高等教育機関は従来、研究重点型大学が主流であったが、90年代前半から多様化してきた。近年、特に教育重点型の高等教育機関を中心に、経営モデルを「企業型」に刷新する動きも顕著である。
組織的な経営は、学長が責任をもって主導する立場にある。学長は伝統的に、アカデミック・リーダーとしてのシンボル的存在(CAO、Chief Academic Officer)であったが、近年、企業のCEOの役割も有すべきとの傾向が強くなっており、外部資金の獲得も重要な任務となっている。学長の平均年齢は58歳、3分の2は他の高等教育機関で副学長等を経験しており、いわゆる生え抜きは少ない。
各高等教育機関の全体的な戦略や予算には、カウンシルが責任を持つ。カウンシルの構成員の多くは学外の者であり、産業界出身者も多い。従来は大学経営に対し受動的な存在であったが、近年主体的に発言し、伝統的気質に挑戦している。
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経団連では、今回のミッションの結果を踏まえ、わが国の大学・大学院改革に関する具体的な提言を行っていく予定である。
【産業技術本部、社会広報本部】