経団連は2月20日、東京・大手町の経団連会館で雇用委員会国際労働部会(谷川和生部会長)を開催した。日本貿易振興機構(ジェトロ)海外調査部中南米課課長代理の二宮康史氏から、労務環境も含め、ブラジルのビジネス環境について聞き、意見交換を行った。講演の概要は次のとおり。
■ 日本企業の事業拡大地域
ジェトロが昨年10月から12月、海外進出している日系企業に実施したアンケートによると、今後1~2年で事業拡大する地域の第1位は南西アジア(78%)、次いで中南米が第2位(65%)と高位にある。なかでもブラジルは、78%の企業が事業を拡大すると回答している。
GDPでみたブラジルの経済規模は、中国の3割、ASEAN10カ国合計に匹敵する大きさとなっている。近年の成長率は1~3%と鈍化しているものの、欧州危機後でも海外からの直接投資額は高水準を維持、日本企業の投資も増加傾向にある。ただ、ブラジルへの日系進出企業数は約370社で、インドの約1千社に比べるとまだ開拓の余地は大きい。
■ 経営環境上の課題
世界銀行によるビジネス環境ランキングは185カ国中130位とインドネシア(128位)、インド(132位)とほぼ同じで低位にある。ブラジルで最も問題となっているのは「税金の支払い」(156位)で、高率かつ複雑な税制が大きな経営環境上の障害になっている。
日系企業から見た課題も、税制の問題が毎年最も高くなっているほか、輸入規制などの保護主義的政策、近年では労働コストの上昇が指摘されている。
■ 労務コスト試算
経済成長は低迷しつつも失業率は改善傾向にある。工業の正規雇用増は低位にとどまっているが、医療機関(6.5%)、教育(5.3%)等サービス業が4.3%、採掘業が5.3%と増加が顕著である。
民間コンサルタントによる、自動車部品製造業におけるコスト試算では、経費に占める総額人件費の割合はブラジルが14%で、ロシア11%、メキシコ7%、中国6%、インド4%と他の新興国に比べ高い(米国は21%)。
ブラジルの繊維会社をモデルとした雇用コスト試算では、手取り給与672レアルに対して企業負担は2067レアルとほぼ3倍となっている(これは高めの試算)。
■ 強い労働者保護
義務教育を受けていない多くの労働者が搾取されないよう、1943年に制定された統合労働法において、労働者の権利、労働組合、団体交渉、労働裁判所などの制度や枠組みに加え、労働条件についてもこと細かに規定している。
その一例として、原則として不利益な雇用条件の変更が認められないことや、解雇(労働契約解除)後2年間は労働者側が会社を訴える権利を有することなどが定められている。
税制の問題や労務問題はあるものの、すでに進出している日系企業はどうにか対応し、投資拡大を指向している。ブラジルの制度や仕組みに対する適切な準備を進めることで、その多くを乗り越えられると思う。
【国際協力本部】