経団連は18日、提言「インサイダー取引規制の見直しについての意見」を取りまとめ、公表した。
公募増資に関連したインサイダー取引の発覚等を契機に、今年7月から、金融審議会「インサイダー取引規制に関するワーキング・グループ」において、規制の見直しが行われている。市場の公正性担保、円滑な資金調達実現のためには再発防止の取り組みは必要であるが、企業活動を萎縮させたり、市場を冷え込ませたりするような過度の規制強化は避けるべきである。あわせて、現行制度におけるビジネスの実態に合致しない規定についても、見直しを図るべきである。
提言の具体的な内容は次のとおり。
1.情報伝達行為等への対応
現行制度においては、インサイダー情報に基づいて売買をすることが禁止されており、インサイダー情報のやり取りがあっても実際に取引が行われなければ、処罰の対象とならない。今回の見直しでは、実際に取引をしていなくても、インサイダー情報を提供する行為やインサイダー情報に基づく取引推奨行為を、規制の対象に含めることが検討されている。しかし、こうした行為を規制するとしても、正当な企業活動に支障が生じないよう、情報伝達や取引推奨の結果、実際に取引が行われた場合、かつインサイダー取引を行わせる目的があった場合に限るべきであり、業務遂行上の必要がある場合は適用除外とすべきである。
2.課徴金額の計算方法
ファンドマネジャー等が投資家のためにインサイダー取引を行った場合、課徴金額は当該取引に関する運用報酬をベースとして算定され、低額にとどまる場合があるため、違反を抑止する機能を強化する観点から、課徴金額を引き上げるべきという議論がある。しかし、課徴金は規制の実効性を確保する観点から、違反行為が「やり得」とならないよう、利得相当額に当たる金銭的な負担を課す行政上の措置として導入されたものである。
インサイダー取引に対しては、行政上の措置である課徴金とあわせて、刑事罰も科され得る。このことが、憲法39条が禁じる二重処罰に当たらないとされるのは、課徴金が利得をはく奪するものである一方、刑事罰は反社会性・反道徳性を問うものであり、両者は異なる趣旨に基づく措置であると整理されていることによる。この点との整合性を踏まえ、課徴金は従来どおり利得のはく奪という概念に基づくべきである。
3.その他の規制緩和要望
わが国のインサイダー取引規制は、詳細かつ外形的な規制手法をとるため、正当な取引をも躊躇させるような結果となりかねない。さらに、違反行為に対しては、行政処分に加え、取引所や自主規制団体からの制裁・処分、懲役刑も含む刑事罰も科され得るにもかかわらず、企業の予見可能性の低い規定や現在のビジネスの実態に必ずしも適合していない部分がある。資本市場活性化のため、こうした規定について見直しを図るべきである。
例えば、重要事実を知る前に締結された契約に基づいて売買を行うなどの、いわゆる「知る前契約」に基づく取引は適用除外であることを明確にし、従業員持株会・役員持株会の活用を促進させるべきである。
【経済基盤本部】