経団連は1日、欧州委員会競争総局幹部および競争法を専門とする弁護士を招き、東京・大手町の経団連会館で「欧州におけるカルテル規制の執行に関するセミナー」を開催した。講演者の説明のポイントは次のとおり。
カルテル規制の執行状況
マデロ欧州委員会競争総局副総局長
欧州委員会は、カルテルの摘発に全力を尽くしている。2010、11年には、11件の調査を終了し、83事業者に対して総額35億ユーロの制裁金を課した。これは、公正な競争を確保し、消費者が適正な価格で最も革新的な製品を入手できるようにするためである。国際的なカルテルに対しては、日本の公正取引委員会をはじめ、各国の競争当局と連携して取り組んでいる。
バン・ヒンダーラヒター欧州委員会競争総局部長
欧州委員会は、カルテル違反企業に対して世界売上高の10%を上限とした制裁金を課すことができる。これは、EUは刑事罰を課すことがないなかで、カルテル違反への大きな抑止力となっている。制裁金の額は通常、カルテルの期間が長ければそれだけ大きくなる。また、親会社についても、違反した子会社に決定的な影響力を行使していれば責任を問われることから、ジョイントベンチャーにおいてもカルテルが行われないよう親会社は注意すべきである。
カルテルのリスクへの対処法
バン・ホフ弁護士(バンバール・アンド・ベリス法律事務所)
カルテルを予防するためには、各社の企業文化を踏まえた適切なコンプライアンス・プログラムを設けることが不可欠である。まず、カルテルのリスクのある事業活動やそれに従事する従業員を特定する。そのうえで、従業員のリスクに応じたトレーニングを行うとともに、リスクの高い分野を中心に、違反がないか絶えずモニタリングを行う必要がある。コンプライアンスの実効性を高めるためには、昇進や昇給とリンクさせるなど、従業員に遵守のインセンティブを与えることも有効である。
クミシック弁護士(バンバール・アンド・ベリス法律事務所)
社内調査などによりカルテルが発覚した場合、企業へのダメージを最小限にする方策を検討する必要がある。まず、カルテルを当局に自主申告することにより課徴金減免を求めるリニエンシー制度の活用が考えられる。この恩恵を受けるためには、カルテルの証拠を提出するだけでなく、当局に対して十分な協力を行う必要がある。また、08年から和解手続が導入されており、企業は当局との和解においてその責任を認めることで、課徴金額の10%の減額が認められる。
由布節子弁護士(渥美坂井法律事務所・外国法共同事業)
欧州のカルテル規制に特有の留意点として、競争事業者間で、価格や生産数量といったカルテルにつながり得る情報を交換するだけで違反となる可能性があるなど、情報交換を厳しく規制することが挙げられる。また、調査手続において、日本と異なり弁護士秘匿特権が認められており、弁護士とのやりとりについては開示を拒否することができるが、社内弁護士には適用されない。日本企業としては、こうした相違点について注意するとともに、最新のEU法の実務を理解しておくことが不可欠である。
【経済基盤本部】