経団連は10日、東京・大手町の経団連会館で、宇宙開発利用推進委員会企画部会(笹川隆部会長)・宇宙利用部会(西村知典部会長)合同会合を開催した。当日は、岩手大学の横山隆三名誉教授から、観測分野における宇宙開発利用の取り組みについて説明を聞くとともに意見交換を行った。説明の概要は次のとおり。
■ 「だいち」の地域利用
岩手大学工学部では、リモートセンシング(注)データの解析処理の研究に従事した。2005年の退職後は、同大学の特任教授として、06年1月に打ち上げられた陸域観測技術衛星「だいち」(11年5月運用停止。現在、後継機を開発中)の立体視画像などを作成できる特長を用いて、地域で利用するプロジェクトを推進した。立体視画像には、地形の起伏と地表の状況が同時に判読できるなどの特長がある。06年度から08年度にかけて、青森、岩手、秋田の北東北3県の「だいち」の実利用研究に取り組んだ後、東北地方全体に研究を拡大した。
(注)リモートセンシング=衛星等により、離れた場所から対象物の特徴、性質、状態などを観測する技術
■ 具体的な利用例
岩手県が産業廃棄物の不法投棄を監視するにあたり、「だいち」の画像を提供、地表の変化を分析し、不法投棄の実態の把握に貢献した。
08年6月に岩手・宮城内陸地震が発生した際には、山間部の画像を両県などに提供し、現地調査に役立てた。昨年3月の東日本大震災では、震災前と津波による被害が生じた後の画像を岩手県、宮城県、福島県、自衛隊などに提供した。
現在、文部科学省が全国の活断層の総点検を行っているが、その作業の基本的な図として「だいち」の画像が採用された。また、海外では、中国の四川大地震、ハイチ大地震、ニュージーランド地震の際、立体視画像を提供し復旧に貢献した。
そのほかの実利用例としては、治山・治水、森林管理、警備・救難活動、漁場管理、浸水被害地の特定、学校用の教材などがある。
■ 今後の利用可能性
多くの地球観測衛星が打ち上げられているが、地域で使うリモートセンシングはまだ十分に浸透していない。衛星による立体視画像は地域社会における多様な課題に利用できるので、「だいち」の後継機の高解像度化が期待される。
<意見交換>
「リモートセンシング衛星のデータの継続性の確保が課題である」という委員の意見に対し、横山氏は、「データの継続性により技術が蓄積される。日本の地域社会で実用化されれば、海外でも利用できる。利用技術が重要である」と答えた。
【産業技術本部】