経団連は1日、東京・大手町の経団連会館で産業問題委員会産業政策部会(伊東千秋部会長)を開催し、産学連携推進機構の妹尾堅一郎理事長から、「ビジネス環境の変貌、ビジネスモデルの変容と多様化、わが国の産業政策のあるべき姿」について説明を聞いた。説明の概要は次のとおり。
■ ビジネス環境の変貌
21世紀に入り、情報ネットワークが完成したことで、ユーザーはコンテンツ、サービス、デバイスの組み合わせを選ばなくて済むようになった(分野別の垂直統合的な「1対1対1」から分野横断的な「N対N対N」へ)。また、事業者は、情報とエネルギーが組み合わさったスマートグリッドなど、モノ、エネルギー、情報の各要素が相互に融合した製品・サービスを求められるようになった。その意味で、今後はデジタルとアナログの融合、リアルとバーチャルの融合が重要になる。
一方、ソーシャルネットワーキングサービスに代表されるように、ユーザー自身がコンテンツの作成に関与し始めるなど、ユーザーと事業者の関係もこれまでの垂直的なものから水平的なものに移行している。日本企業の多くはこうした環境の変化に十分に対応した「次世代産業生態系」を見通した事業の展開や製品を生み出すことができておらず、現在、欧米の勝ち組企業が演じている覇権争いに参画できていない。
■ ビジネスモデルの変容と多様化
機械を例に挙げると、その動作を制御する組み込みソフトを押さえ、かつ製品作動の記録(ログ)を蓄積活用すれば、顧客へのサービス展開はもとより、新たな製品開発の主導権を握ることが可能となり、ビジネスで優位に立つことができる。
世界で40億人に上る所得の低い層を対象としたビジネスにおいては、「そこそこ品質・そこそこ安定性」でも十分対応できる。実際、勝ち組企業は、制御系や情報系を押さえると同時に、その他は安価で定評のある他社製品を活用することで、収益を拡大している。
これに対して日本企業の多くは、高い技術力を有するがゆえに、依然として高品質・高安定性を重視する戦略をとり続けている。その結果、日本企業がつくる製品の価格帯はおのずと高くなり、世界市場で十分な支持を得られていない。そればかりか近年では、制御系技術の標準化の主導権も奪われており、全体として欧米の勝ち組企業のビジネスモデルの手のひらの上で活動をせざるを得なくなっている。
■ わが国産業政策のあるべき姿
産業政策とは、一般に自国の産業(企業群)が国際競争力を持ちつつ、事業で勝つこと、勝ち続けること、そして安定的に雇用を確保していくこと、これらを政策的に支援することである。
こうしたことから、政策も事業環境の変化に応じた対応が求められるはずであるが、わが国の産業政策はいまだに「陳腐化した三つの前提」((1)既存の産業構造(2)80年代のビジネスモデルとものづくり神話(3)旧来型のイノベーションモデル)の下で講じられている。今後は日本企業が国際競争で勝っていけるモデルに転換していくよう支援すべきである。
そのためには第一に、次世代の産業生態系・ビジネス環境を見通した産業政策を打ち出すべきである。「成長」という言葉が示す既存の産業モデルの量的な拡大よりも、次世代モデルの産業構造へと「発展」させることを目指すべきである。
第二に、標準化や特許権の提供によって他社と協調して市場形成を加速させるオープン部分と、独自技術による収益源を特許権やノウハウ秘匿によって確保するブラックボックス化したクローズ部分を、どう組み合わせるか、そのデザインに基づく事業展開を支援すべきである。
第三に、技術を開発してから用途開発に向かう技術起点型イノベーションの限界を見極め、実現したい価値を現実のものとするといった事業起点型イノベーションを促すべきである。そのためには、産業競争力と関係が深い科学技術政策を抜本的に見直し、予算の効率的使用より効果的使用、ビジネス展開を配慮したかたちでの産学連携等を推進していくことが重要である。
【産業政策本部】