経団連は3日、東京・大手町の経団連会館で雇用委員会国際労働部会(谷川和生部会長)を開催した。当日は、日本貿易振興機構(ジェトロ)・アジア経済研究所地域研究センター南アジア研究グループの太田仁志副主任研究員から、インドの最近の労働事情について聞き、意見交換を行った。講演の概要は次のとおり。
■ 経済・労働関連指標
インドは世界的な景気低迷の影響を受けながらも今年の成長率5~6%台が見込まれている。ただし、「闇経済」の規模が5割程度との指摘もあり、経済実態の統計による把握の際には留意したい。
1990年代初頭の経済自由化以降、製造業のGDPシェアは15%程度を推移し、他方、商業・ホテル・レストランなど1人当たり付加価値額の低い、労働集約型の第3次産業の伸びが著しい。
若年者が多いという人口構造からインドでも人口ボーナス(注)の恩恵が期待されるが、将来の成長に向けて、教育の充実は大きな課題である。
(注)人口ボーナス=生産年齢人口の比率が高く、高度経済成長が可能とされる状態
■ 労働法制の実態
労働法制は中央政府と各州の共通管轄事項であるが、一定の範囲で各州独自の取り決めが可能なため、労働法の細部が州ごとに異なる場合がある。
労働法制は近年の経済環境に不適応で、とりわけ提出書類の数や頻度の多さなど運用面での煩雑さが指摘されている。硬直的な労働法制が経済成長の足かせになっているとの議論はあるものの、2000年代中盤は高い経済成長を記録している。
経済自由化以前から労働者保護の色彩が強く、産業平和実現の名のもと、法規制、調停・強制仲裁などのかたちで政府による介入や司法の判断が行われるため、労働の現場が影響を受けることがある。
他方、労働法制の保護を受けづらい零細組織での就労や非正規労働者、また自営業者は9割を超える。
■ 労働法改革の動向
労働法改革の必要性は指摘されているが歩みが遅いというのが実態である。
請負労働法は請負労働の適用範囲について、コア業務は禁止とし、職務の性質等を勘案して州政府が判断し決定するとしている。中央レベルでは未改正だが、州レベルでの改正はみられる。
労働争議法は制定後の改正で、従業員の解雇・事業所閉鎖・レイオフの際、100人以上の組織では所管政府の許可が必要となった。希望退職者募集などの実務的対応でどうにか対処しているのが実態である。
労働組合法は近年一部改正されたが課題は多い。同法は組合承認を経営者に義務付けていない。インドでは複数組合化しやすく、交渉当事者の確定が難しい場合がある。また、外部指導者を一定比率まで組合役員とすることを認めており、企業外部の要因で個別企業の労使関係が影響を受けやすい構造になっている。
■ 労使関係上の課題
ジェトロの調査によれば、(1)労務上問題点がある(2)人件費が高い、上昇している――という点においては、中国に比べると、ビジネス上のリスクは低い。インドについてはインフラの未整備が一番大きな課題である。
ストライキ件数は90年代の自由化後も引き続き減少しており、2010年は262件(暫定値)であった。日系企業の紛争が日本のメディアで大きく取り上げられたが、インド全体として見るとき、大きな変化を決定付けるものではない。
複数組合化、外部指導者容認、政府・司法介入などにより、インドでは歴史的に、団体交渉当事者における紛争処理能力は弱い。労働組合の政党系列化も問題である。
労務管理上の留意点としては、ラインによるケアや情報共有、またプロセスマネジメントなどによって従業員の動向や考え方を把握しておくことが重要であると思われる。
【国際協力本部】