経団連は7月30日、東京・大手町の経団連会館で、紛争地域および高リスク地域からの鉱物のサプライチェーンにおいて、人権を尊重するとともに紛争への関与を回避するためのリスク管理を行うよう企業に求めたOECDガイダンス(以下、ガイダンス)に関する懇談会を開催し、OECD事務局のタイラー・ギラード氏から、ガイダンスの策定された背景、内容等に関し説明を聞いた。説明概要は次のとおり。
■ ガイダンスの実施を通じて紛争への関与を回避
紛争地域等では、武装勢力が鉱物を資金源に活動しており、人権侵害、戦争犯罪、人道に対する罪などに当たる行為が長期にわたって行われているという実態がある。鉱物はグローバルに広がる複雑なサプライチェーンを通じて供給されるため、企業は気付かないうちに紛争や人権侵害に関与している可能性がある。
こうした紛争鉱物への問題意識が国際的に高まるなか、ガイダンスは2009年に検討が始まり、多くの関係者の協力を得て策定され、11年5月のOECD閣僚理事会で採択された。OECD加盟国を含む42カ国が国内の企業にガイダンスの活用を促すとしており、国連安全保障理事会からも支持されている。米国金融改革・消費者保護法(ドッド・フランク法)の紛争鉱物に関する企業の開示・報告義務の履行に必要な情報を得るにあたって、ガイダンスを活用することが可能である。
■ 継続的な実施と漸進的な改善が必要
ガイダンスは、企業が鉱物の調達を通じて紛争や人権侵害に関与しないようにするための明確かつ実用的な指針を提供することを目的としており、紛争地域等で採掘されたすず、タンタル、タングステン、金を使用する可能性のあるサプライチェーン上のすべての企業による実施を想定している。ガイダンスは、(1)リスクに基づくデューディリジェンス(内部点検)の五つのステップ(2)リスク管理のためのモデル指針(3)リスク緩和のために推奨される措置(4)すず、タンタル、タングステンに関する補足書(5)金に関する補足書――から成る。「(1)リスクに基づくデューディリジェンスの五つのステップ」は、(1)強固な企業内管理体制の構築(2)サプライチェーン内のリスクの特定・評価(3)特定されたリスクに対応するための戦略の立案・実施(4)デューディリジェンスの独立した第三者による監査(5)サプライチェーンのデューディリジェンスに関する年次報告――の5段階となっている。
ガイダンスは、鉱物の供給者と協力して、その調達のあり方を徐々に見直すことを奨励するものであり、デューディリジェンスは、情報を収集・整備し、漸進的な改善を図るダイナミックで継続的なプロセスである。実施方法については当該企業の活動やサプライチェーンにおける位置付けに応じた柔軟性が認められている。また、ガイダンスは、企業がデューディリジェンスを既存のマネジメントシステムに統合することを奨励している。コストを節約し監査疲れを回避する観点から、業界あるいはステークホルダーが共同でデューディリジェンスを実施することも考えられる。
■ ガイダンスのパイロット事業を実施
ステークホルダーが定期的に会してガイダンスの実施面における課題を検討する機会を設けている。その一環として、現在約100社の参加を得て、すず、タンタル、タングステンに関してガイダンス実施のパイロット事業を行い、知見を共有すべく、結果の出たものからサプライチェーンの上流と下流に分けて報告書を公表している。金についてもガイダンス実施のための事業を計画中である。
※ガイダンスの詳細は、OECDホームページ(http://www.oecd.org/daf/investment/mining)、経済産業省ホームページ(http://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/oecd/index.html)に掲載されている
【国際経済本部】