第101回ILO(国際労働機関)総会が5月30日から6月14日まで開催された(前号既報)。総会全体では、使用者側の考え方が概ね反映された結論となった。各議題について次に紹介する。
■ 「社会的保護の床に関する勧告」
この議題は、昨年の総会での議論の末、「勧告を作成すべき」との結論を踏まえたこともあり、大きな対立はなかった。
「社会的保護の床」とは、貧困・社会的弱者、社会的疎外を防止または除去するための基礎的な社会保障制度のこと。具体的には、(1)基本的医療、ヘルスケア(マタニティーケアを含む)へのアクセス(2)子どもに対する教育の提供、栄養の供給(3)疾病、失業、妊娠、障害等の理由で十分な所得を得られない現役世代に対する基礎的な所得保障(4)高齢者に対する基礎的な所得保障――を指す。こうした基礎的な社会保障について、可能な限り多くの人に対し、より高水準の給付を行うべく、漸進的に拡充することを定めている。
「世代ごとの負担能力を考慮しつつ、財政的・経済的に持続可能な社会的保護の床を構築するために必要な財源を確保すべく、国情に応じた多様な手法を講じるべき」という指摘もあり、わが国の「社会保障・税の一体改革」の議論にも相通ずるものがある。
なお、勧告の強制力はなく、加盟国が「床」をつくるときの指針となる。
■ 若年者雇用の危機
若年者雇用の状況は、2005年ILO総会で議論した後も、世界的な経済・金融危機の影響を受けて、深刻化している。
結論文書では、政府が「エンプロイアビリティーの向上のために、労働市場が必要とする資格の標準化を実施するなど、教育訓練と実際の就業との結び付きを強化する」こと、「労働市場政策の効果的な実施を検証し、公共職業訓練プログラムを含めた労働市場政策に適切な資源を割り振る」こと、ILOが「若年者の労働市場の傾向分析や問題点の抽出、雇用政策やプログラムに関する好事例の収集、情報の普及などにより加盟国を支援する」ことが指摘されている。
■ 労働における基本的原則及び権利
2008年総会で採択された「公正なグローバル化のための社会正義に関するILO宣言」で、雇用、社会的保護、労働における基本的原則と権利、社会対話の四つの戦略目標について、総会の場で周期的に議論することを定めており、今回はその3回目。
今年の周期的議論では、労働における基本的原則及び権利(以下FPRWと略す)の四つの分野、すなわち結社の自由及び団体交渉権の効果的承認、強制労働の禁止、児童労働の廃止、雇用及び職業における差別の排除と、関連する八つの基本条約(注)について、加盟国の多様なニーズとそれに対応するILOの活動をレビューし、2012~16年の行動計画を採択することが目的。
結論文書では、ILOが、「八つの基本条約の批准促進を含めFPRWの尊重・推進・実現に向け、実施と進捗評価のための情報収集をすること、各国レベルでのFPRW強化のため、労働監督機関強化に向けた支援や好事例の共有を行うこと、他の国連機関との連携によりFPRWを効果的に推進すること」などが盛り込まれた。
(注)(1)結社の自由及び団体権保護条約(第87号)(2)団結権及び団体交渉権条約(第98号)(3)強制労働に関する条約(第29号)(4)強制労働廃止条約(第105号)(5)最低年齢条約(第138号)(6)最悪の形態の児童労働の禁止条約(第182号)(7)同一価値労働の男女労働者同一報酬条約(第100号)(8)雇用及び職業についての差別待遇に関する条約(第111号)――である。なお、日本は(4)と(8)を批准していない
経団連としては、日本政府やILOの運営が今後、結論に沿ったものか注視していく。
【国際協力本部】