経団連の21世紀政策研究所(米倉弘昌会長、森田富治郎所長)は3月21日、東京・大手町の経団連会館で第89回シンポジウム「日本の通商戦略のあり方を考える-TPPを推進力として」を開催した。同研究所では、昨年度プロジェクトとして日本の通商政策の現状と将来課題について総合的に分析してきた。今回のシンポジウムは研究成果を報告するとともに、今後の日本に求められる通商戦略のあり方について議論することをねらいとしたものである。
まず、森田所長が開会あいさつで、「わが国経済の中長期的な成長の実現には生産性の向上がカギ。そのためにも、海外とのヒト・モノ・カネの移動の円滑化と国内経済構造の変革が急務で、通商政策が大きな役割を果たす。わが国はTPP(環太平洋経済連携協定)をはじめとしたFTA・EPAへの締結を積極化し、アジアのダイナミズムを取り込んでいく必要がある」と、今回のシンポジウム開催の背景を紹介した。
続いて、同研究所の浦田秀次郎研究主幹(早稲田大学大学院教授)が研究成果の報告を行い、「世界ではグローバリゼーションと同時に、各地域内での貿易依存度の高まりやFTAの急増などリージョナリゼーションも進展している」と現状分析したうえで、長期化する低成長、人口減少・高齢化、政府債務の増大など、日本の厳しい経済状況を踏まえ、「資源配分の効率化、技術進歩の推進、公正なビジネス環境の構築などを促進するTPP参加と、市場開放に加えて経済協力の推進も含むCEPEA(東アジア包括的経済連携協定)の実現が必要である」と提言した。
その後、浦田研究主幹がモデレーターを務め、石川幸一・亜細亜大学教授、木村福成・慶應義塾大学教授、深川由起子・早稲田大学教授、本間正義・東京大学大学院教授、小寺彰・東京大学大学院教授が参加したパネル討論が行われた。討論では、「TPPは現実的観点から各国が相互に譲歩するかたちで合意するだろう。各分野で交渉の余地はまだかなり大きく、日本も早く交渉に参加して産業界の意向や国民経済的な利益を反映させるべきだ」(石川氏)、「東アジアで急速に進展する生産工程・タスク単位の国際分業に対応した環境整備が必要だ。TPPなどのハイレベルFTAと同時に、インフラ整備や中小企業振興などの開発アジェンダを実現する東アジア経済統合を進めるべき」(木村氏)、「ASEANを核とするFTAとは対照的に日中韓のFTAは進展していない。共通利害の明確化や成長ビジョンの共有を通じて制度的な収斂を図るべきだ」(深川氏)、「農地取得規制の緩和・撤廃による農外企業の農業参入促進、税制改正による農地保有コストの見直しなど、TPP参加を前提に農業分野の構造改革を進めるべきだ」(本間氏)、「WTO交渉は停滞しているが、グローバルルールの発展は重要だ。そのためにも、有志国間(プルリ)協定などでWTO協定を補完していく必要がある」(小寺氏)など、多岐にわたる議論が展開された。
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シンポジウムでの議論の詳細は、21世紀政策研究所新書として刊行予定である。
【21世紀政策研究所】