「おめでとう! 日本もいよいよ欧米に近づいてきたね」
2024年秋、中東で開かれた国際会議に出た際、旧知の欧州系金融機関トップから皮肉まじりにかけられた言葉だ。その前日、日本の衆議院議員総選挙で与党が大きく議席を減らした様子をみて、極右政党が勢力を伸ばすフランス、連立政権の瓦解が危ぶまれていたドイツ、政治的分断が深まる米国など、欧米の混沌とした政治情勢と重なったらしい。
「日本の政治情勢は、欧米よりはマシだと思うよ」と応じてみたものの、わが国が、欧米以上に深刻な状況に直面していることがある。財政問題だ。
日本の財政が危機的であることは長年指摘されてきた。だが、コロナ禍を経て状況は一段と悪化している。財務省の推計によれば、2024年の政府債務残高対GDP比は250%を上回る。主要国はもちろん、世界でも突出した水準だ。
コロナ禍を乗り越え、「成長と分配の好循環」が回り始めた日本経済は、新たなステージへ移りつつある。経団連が掲げる「経済再生なくして財政健全化なし」の方針、これはその通りだ。一方、経済再生を確たるものとするには、健全な財政に裏付けられた長期的な支援や有事への備えもまた不可欠である。
わが国の財政に、ポピュリズムに迎合する余裕はないはずだ。今こそ、エネルギー政策など、真に重要かつ緊急な課題を見極めつつ、歳出構造の平時化などを通じ、不退転の決意で健全化に取り組まねばならない。
財政健全化に向けて、われわれ民間の役割も重要だ。官民合計で150兆円超の投資を目指すGX推進戦略をはじめ、民間資金を有効に活用し、持続的な経済成長に結びつける仕組み作りが欠かせない。金融・資本市場委員会で議論を重ねているインパクト投資もその一つだが、日本経済の再成長に向けて金融の力をしっかりと発揮していく必要がある。
「日本では官民が連携して課題に取り組んでいるよ」
将来、冒頭で触れた彼に対し、胸を張って言えるようにしたいものである。