昨今、日本企業の信頼を揺るがす大規模な不祥事が相次いでいる。大手自動車メーカーの認証不正、大手電機メーカーの不正検査や不正会計、そしてNTTグループにおける個人情報の不正流出。その根底には、これまで通りにすればよいという現状維持バイアスや同調圧力、事なかれ主義、ノルマへの極度のプレッシャーと心理的安全性のない職場風土などがあったと思われる。
データ駆動型経営の推進はこれらの風土改善に貢献するが、これまで日本企業で培われてきた、数値化ができない職人的な勘やノウハウも消失していくことになる。これまでのIT活用による経営高度化の歴史、つまり「システム・インテグレーション」や「カスタマイズ」だけでは対応できない時代を迎えている。一方、わが国における喫緊の課題である人口減少・人手不足への対処は、ロボットや生成AI等のデジタル技術の活用によるDXを前提にしなければ立ちゆかない。
生成AIによるDXの進展は、これからの社会ではホワイトカラー人材の余剰をもたらす。DXが難しいエッセンシャルワーカーについては、現状のままでは人材不足が解消されないことから、仕事と人材のミスマッチが拡大する。その解決には、①エッセンシャルワーカーの賃金増、②マイスター制度の導入、③(それによる)ホワイトカラーのリスキリング、④労働市場への未参入者や有期雇用等労働者の積極的な正規雇用化等の取り組み─が必要となる。特に重要なのは、エッセンシャルワーカーの賃金増とマイスター制度の導入だと考える。日本の良さである高い技術力と職人の技に対する正当な評価と賃金への適切な反映を国家戦略に位置付け、日本から海外へ展開できるモデルのベースを確立しなければならない。
日本は生成AIをはじめとするDXで抜本的な省人化を図りながら職人の良さも残すパラコンシステントな社会の実現に向けて真剣に取り組み、「技術・職人立国」を目指すべきである。日本のよりよき明日のために。