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月刊 経団連  巻頭言 未来志向の社会保障制度改革の必要性

安川 健司 (やすかわ けんじ) 経団連審議員会副議長/アステラス製薬会長

昭和33年(1958年)に制定された国民健康保険法に基づく国民皆保険が実施されて65年以上が経過した。この間に国民の平均寿命は延び、死亡要因となる疾患は大きく変わった。

しかし、国民健康保険法は抜本的な改革が行われず、21世紀に入ると制度疲労が目立ち始める。詳細な説明は紙面の都合上省略するが、国民(患者)には、有限な医療資源を有効に使おうという意識や、予防・未病といった自助意識が薄い。医師、病院については、診療報酬制度と自由開業制度の継続が、欧米諸国と比較して小規模医療施設の都市部への偏在や、経営コストの高止まり、DX(デジタルトランスフォーメーション)化を含むデータ活用の遅れの遠因となっている。現状のままでは医療コストは増大し続け、特に高齢者の医療費を支えている現役世代の負担が増加することは避けられそうにない。

政府は、増加する社会保障費の主たる抑制策として薬価の引き下げを行ってきたが、医療費全体に占める医薬品の割合は2割に過ぎず、薬価引き下げによる抑制効果は限定的であり根本的解決になっていない。そればかりか、日本の医薬品市場が魅力を損なうことによるドラッグラグ・ロス(欧米で開発・承認された医薬品の日本での開発が遅れている、あるいは着手されていない状態)を助長して革新的な新薬が国民に届かず、医薬品の安定供給にも悪影響を及ぼす結果となっている。

これが、国民が真に望んだ社会の姿であったのか。

いまこそ産業界・国民・政府といった全てのステークホルダーが改革に向けて動き出すときである。限りある医療資源の有効活用に向け、産業界は革新的医薬品の創出や医薬品の安定供給はもとより、医療効率化に資する新たなソリューションの創出を推進すべきだ。国民は、本来大きなリスクに対して備える互助システムである国民皆保険制度を正しく理解し、セルフメディケーションを積極的に行う自助意識を持つ必要がある。

政府には、医療の効率化を加速させる抜本的な制度改革を行うとともに、縮小均衡ではなく、ヘルスケア産業を外貨獲得産業として育成する産業政策の策定と実施を求めたい。これらの改革を一体となって行うことで、国民の健康維持・増進と経済成長の両立が実現し、かつ持続可能な社会保障の未来が見えてくるはずだ。

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