1. トップ
  2. 月刊 経団連
  3. 巻頭言
  4. 2024年を「30年来のデフレ」からの完全脱却の年に

月刊 経団連  巻頭言 2024年を「30年来のデフレ」からの完全脱却の年に

十倉 雅和 (とくら まさかず) 経団連会長

PDF形式にて全文公開中

日本経済は、企業の強い設備投資マインド、継続的な賃金引上げのモメンタム、コロナ禍からの回復による消費の拡大などに支えられ、長きにわたる低迷から脱する明るい上向きの力が生じている。経団連は、企業自らが成長と分配の好循環をけん引すべく活動を続けているが、2024年は、官民が連携して経済のダイナミズムを取り戻し、30年来のデフレからの完全脱却を実現する歴史的な転換の年としたい。

カギを握るのは、様々な社会課題の解決を通じた、国内経済の持続的な成長の実現である。経団連では、深刻な社会課題のうち、生態系の崩壊について、2022年5月に「グリーントランスフォーメーション(GX)に向けて」を取りまとめたのに続き、格差問題の解決について、2023年4月に「サステイナブルな資本主義に向けた好循環の実現」を公表している。

成長と分配の好循環を実現し、多くの人々が豊かさを実感し、希望がかなえられる「分厚い中間層」を形成することが、今後のわが国にとって欠かせない。分厚い中間層の形成は、格差問題の解決と同時に、さらなる需要、消費を生み出し、経済の好循環を促進する。また、中間層の所得の向上、明るい将来展望は、社会の安定や人口減少問題の解決にも資する。

重要な政策の柱は、「マクロ経済政策」「社会保障・税制」「労働政策」の三つであり(図表)、これらを部分的な改革ではなく、全体感を持って政策を推し進めていくことが肝要である。

図表:成長と分配の好循環と各政策の関係

マクロ経済政策

マクロ経済政策においては、官民連携による「ダイナミックな経済財政運営」の展開が重要となる。

政府は、民間の予見可能性を高める長期計画的な投資等により、民間の投資環境を改善させる必要がある。デジタルトランスフォーメーション(DX)、GXをはじめとする戦略分野について、民間と共通の認識のもとで中長期計画を定め、当初予算の段階で十分な規模の財政措置を行うべきである。無論、エネルギーや教育など、競争力強化の基盤整備も欠かせない。

企業は、政府投資を呼び水として、積極的に国内投資を拡大するとともに、継続的な賃金の引上げにより、成長と分配の好循環を力強く後押しすることが求められる。

こうした官民合わせた取り組みにより、国内経済が持続的な成長軌道にシフトすることで、税収増等により、政府の財政健全化にもつながる。

公正・公平で安心な全世代型社会保障・税制

少子高齢化・人口減少など、経済社会構造の大きな変化の中で、公正・公平で安心な全世代型社会保障・税制を構築し、現役世代の将来不安を払拭することも不可欠である。わが国の社会保障制度は、高度成長期の人口増大の前提のもとで、現役世代の稼働所得に課される社会保険料を財源としてきたが、人口減少とデフレ経済の中で、保険料負担が増大し、中間層の手取り所得を圧迫している。

今後は、歳出改革やDX化を通じて制度の効率性を高めるとともに、公正・公平の観点から、高齢者を含む国民全体で、負担能力に応じて支えあう必要がある。全世代型社会保障制度は、分厚い中間層の実現に向けた欠かせない社会的共通資本であり、税制を含めた一体改革への議論を早急に開始すべきである。

労働分野における課題

労働分野の硬直性が、わが国経済のダイナミズムに影響を与えてきた面も見逃せない。政府は、雇用のセーフティネットを「労働移動推進型」とするよう、リスキリングやリカレント教育の支援、雇用のマッチング機能の強化を図る必要がある。企業は「人への投資」を強化し、賃金引上げと総合的な処遇改善、人材育成を積極的に進める必要がある。とりわけ、構造的な賃金引上げへの貢献は企業の社会的責務として、適度な物価上昇を前提に継続していく必要がある。これにより、賃金と物価が適切に上昇し、デフレからの完全脱却につながることが期待される。

経済運営の新たな潮流

行き過ぎた資本主義の弊害や複雑化した国際情勢などを背景に、マクロ経済運営の潮流は変化しつつある。

例えば、企業には競争力強化によるトリクルダウンのみならず、成長と分配の好循環によるマクロ視点での貢献が求められている。コストカット型の経営から脱却し、賃金引上げや中小企業を含めた取引価格の適正化など、国全体、サプライチェーン全体の付加価値向上が、より重要視されている。政府の施策面でも、減税や規制緩和だけでなく、社会課題の解決に向けた長期計画的な投資が求められている。比較優位に基づく経済のグローバル化は引き続き重要であるが、経済安全保障への配慮や、国内投資の拡大の必要性も高まっている。

このような新たな潮流を、国、企業、国民一人ひとりが共有し、新しいソーシャル・ノルム(社会的規範)を築いていく時である。2024年、経団連は、一段とギアを上げて官民連携でデフレ脱却に挑戦していく。

「2024年1月号」一覧はこちら

「巻頭言」一覧はこちら