このような課題認識のもと、経団連では、ポストコロナを見据えた「。新成長戦略」において、D&Iを加速するためのメルクマールとして「2030年までに女性役員比率30%以上を目指す」との目標を掲げ、女性のエンパワーメントに経済界として本気で取り組むとの姿勢を明らかにした。
本座談会では、コロナ禍で重要性が浮き彫りとなったD&Iの現状、そしてグローバルな視点から見た日本のジェンダー・ギャップの解消や、「2030年30%へのチャレンジ」をするための課題、それらを後押しするために政府や各業界の果たすべき役割や取り組み、今後の期待について議論した。
野田 聖子(内閣府特命担当大臣(男女共同参画)・女性活躍担当大臣)
政府が女性活躍に関する数値目標を示してから数年たつが、なかなか大きな成果につながっていない。コロナ禍で女性が深刻な影響を受けた。その理由の1つに、平時に、女性の身体メカニズムを理解した対策ができていないことがある。職場においても、それを踏まえたうえでの働き方改革が必要だ。お互いが理解し合い、融合することがダイバーシティだ。D&Iがスタンダードにならない限り、日本の未来の価値は見いだせない。
片野坂 真哉(経団連副会長/ANAホールディングス社長)
数値目標を企業の実情を踏まえずに設定しても意味がない。ANAの女性役員比率は14.6%、グループ全体で9.7%である。30%は大変だが、「2020年代の可能な限り早い時期に達成する新たな目標値」として「女性役員比率30%、女性管理職比率30%」とした。業
種・業態によって、男女の構成比には違いがあり、自社にふさわしいD&Iをつくりあげていくことが大切だと思う。まずはトップの裁量で部長クラスの女性登用を進めることだ。D&Iの推進は、具体的な問題点を丁寧にえぐり出すことが重要だ。働き方改革も必要である。また、日本はD&Iの文化が弱く、その文化を醸成することにも留意して対策を進めるべきである。
魚谷 雅彦(経団連ダイバーシティ推進委員長/資生堂社長)
「2030年までに女性役員比率30%以上」の目標に賛同している企業は約200社だが、実行できなければ意味がない。「30% Club Japan」のサブグループTOPIX社長会の参加企業における取締役会の女性役員比率は平均22%にまで達しているが、執行役員は11%、部門長は9%である。執行役員、部門長階層での女性比率を増やしていくことが大きなテーマで経営者の本気度が試される。課題の1つはアンコンシャス・バイアスの払拭だ。これは男性だけでなく、女性自身の中にもある。管理職になることに対して、プレッシャーやストレスも大きく、「自己犠牲」の感覚を無意識に有している。当社の女性リーダー育成では、まず「自己犠牲を払っている状態」から抜け出すことから始めている。日本はD&Iを推進しないと世界の市場から取り残される。
次原 悦子(経団連ダイバーシティ推進委員長/サニーサイドアップグループ社長)
“女性”はひとくくりにされることが多いが、女性も十人十色で、様々な価値観やライフスタイルがある。女性の中の多様性を認めることも重要である。当社では、福利厚生として「卵子凍結から保存までの費用助成」を行ったり、「ファミリーホリデー休暇」と称する特別休暇を取り入れたりするなど、様々な選択肢を提示し、ライフプランに役立つようにしている。当社の女性役員は27%、女性管理職は39%だが多様なキャリア像を示していくことが重要。様々な女性がリアルに目指せる、手の届くロールモデルを数多く示す必要があり、どのレベルの女性活躍も応援しなければならないと思っている。
長谷川 知子(司会:経団連常務理事)
- ■ コロナ禍でのD&I、特にジェンダー・ダイバーシティの重要性
- D&Iは経営者も消費者も当たり前のことだと気付くべき
- D&Iに取り組む機運は高まっている
- D&Iを推進しないとグローバル社会から取り残される
- 女性の多様性や身体メカニズム・生理のことも理解する必要がある
- ■ 女性役員30%目標達成に向けた課題、各社での取り組み
- 上司も本人もアンコンシャス・バイアスを払拭すること
- 自社にふさわしいD&Iに関わる目標設定が必要
- 女性の生き方、働き方の選択肢を増やすことが企業の役割
- ■ 今後、政治、経済界が果たすべき役割や期待
- 女性活躍のためには、男性の家庭や地域での活躍が必要
- 男性は今まで優遇されていたことに気付くべき
- 具体的な問題点をえぐり出し、D&Iを文化として醸成する
- リアルに目指せる、手の届く多様なロールモデルを設定する
- 女性役員30%の義務化は効果があるか
- 経営者の裁量で執行役員や部長の女性比率を上げることも必要
- 責任や負担をシェアする働き方改革が女性活躍を後押しする