経団連の審議員会副議長に就任し1年強が過ぎた。この間、第1に「中小企業の視点」、第2に「地域の視点」、第3に「女性の視点」の3点を重視してきた。この観点から、現在経団連で議論されているいくつかの論点について、私見を述べてみたい。
第1に働き方改革である。日本では現在、労働時間の短縮に向かって取り組みが推進されているが、今後の議論の方向性について以下を提案したいと思う。
まず、大企業と中小企業とを分けた議論が必要と考える。日本の中小企業が強みとする、「手わざ」や「感性」を重視する創造性の高い仕事は、時間の制約を受けずに取り組まなくてはならず、労働時間を短縮しにくい領域もある。日本の経済を支える中小企業の特性に鑑みた働き方改革を進めていく必要がある。
次に、管理職一歩手前の労働者については、トップレベルは裁量労働制にし、中間層はフレックスタイム制にするなど、労働者の階層を分けた議論が必要ではないかと考える。他国に目を向けると、日本より労働時間や労働生産性が上回る国もある。例えば米国は、日本に比べ労働時間が長く、労働生産性も高い。このようななかで、長期的に日本の競争力を高めていくため俯瞰的に議論することも必要だ。
第2に地方創生である。地方創生のポイントは、「世界から地域」へ「人」や「金」が流れる仕組みと、「地域から世界」へ「物」や「情報」が流れる仕組みを複層的に創造することにある。特に地域の市場は今後縮小が見込まれるので、地域の企業が製造する「物」の世界への販路開拓は重要だ。このような観点から、現在、経団連と北陸経済連合会では、北陸の中小企業と経団連に加盟する大企業等とのビジネスマッチングが手がけられている。この活動を通じて、地域の中小企業の経営基盤を持続的に強化できれば、それが地域の雇用やまちづくりにつながる。このような活動は地域の課題に寄り添うとともに、経団連でしか取り組み得ない地方創生の活動になる。
第3に女性活躍である。女性の社会進出は日本経済発展のために最も重要である。そこで、現在の内閣府の男女共同参画局を格上げし、「女性省」の設立を提言したい。海外に目を向けるとカナダ、ドイツ、オーストラリア等に女性省が存在する。カナダでは毎年『女性白書』が刊行され、女性の社会進出がモニタリングされることで各方面における女性の社会進出が進んでいる。
以上の3点の取り組みを進めるに際しては、いずれも、「次世代の日本を支える人材育成」が必要となる。今こそ「米百俵の精神」で、将来の日本を支える人材の議論が重要である。日本の唯一の資源である「人材」の育成なくして、日本の未来はない。