経団連は、2030年のあるべき日本の国家像とそれを実現するためのアクション・プランを「『豊かで活力ある日本』の再生」で明示し(2015年1月)、この経団連ビジョンで描いた経済・社会の実現に向け、さまざまな分野で活発に活動を展開してきた。創立70周年を迎え、発足から今日までの軌跡と実績を踏まえ、これまでの取り組みをさらに強化していく決意を固めている。そこで、経団連が日本再生の大きな鍵と位置付けた「グローバリゼーション」と「イノベーション」を軸に、世界経済の現状と展望、日本が直面する重要課題を克服する方途、経済界が果たすべき役割などをめぐり議論する。
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榊原 定征(経団連会長)
人口減少、高齢化、社会保障給付費の急増、財政赤字の拡大など山積する課題に立ち向かい、明るい未来を切り拓き、次の世代に活力ある経済・社会を引き継いでいくことは、われわれの世代の責務である。そのためには政府、企業、国民はじめオールジャパンで日本再興に取り組むことが不可欠である。そうした思いと決意を込めて、経団連ビジョン「『豊かで活力ある日本』の再生」を取りまとめた。「Policy & Action」という基本理念は、政策を提言するのと同時にその実現を図るということだ。経団連は改革の旗手として課題解決に先頭に立って取り組むとの決意で臨みたい。
中西 宏明(経団連副会長/日立製作所会長)
Society 5.0は成長戦略の柱ということにとどまらず、世界に向けて提示する人類繁栄のモデルである。その実現に向けて日本の官民は取り組みを強化しており、諸外国から賞賛と期待を持って受け止められている。広く国民の理解を得るには時間がかかるが、経団連としても粘り強く普及に努め、日本が世界でイニシアティブを取るためには、デジタライゼーションを「社会課題を解決するためのツール」と位置付け、世界に貢献するという意識を堅持することが大切だ。産業構造を変えるほどの変革であるから、当然抵抗感を持つ層もあるだろうが、コンセンサスづくりを進め、敢然と実行に移さねばならない。
永易 克典(経団連副会長/三菱東京UFJ銀行相談役)
現在、世界経済のファンダメンタルズは決して悪くないが、英国のEU離脱問題、トランプ政権の打ち出す諸政策などが見通せず、先行きに対する不透明感が広がっている。こうした情勢のなかで、日本は政官民が緊密に連携し、不安定要素をしっかり分析しながら、グローバリゼーションを推進する必要がある。政府と経団連は今、Society 5.0を成長戦略の柱に位置付け、実現に向けた活動を加速させているが、金融業界でもまた、フィンテックの社会実装に向け、オープンイノベーションの取り組みが広がっている。また、山積する課題のなかでも、財政再建は重要課題。「2020年PB黒字化」の実現に向けた政府への働きかけを継続していくべき。
小林 健(経団連副会長/三菱商事会長)
世界経済は長期的には、紆余曲折のある「稲妻型の成長」となるであろう。通商国家・日本としては、トランプ政権の動向や地政学リスク等を踏まえ、二国間・多国間の経済連携協定を進めていくべきだ。日本の経済・社会に活力を取り戻すには、制度改革に伴うコストの公平な負担について国民の理解を得つつ、まず若年層の希望を増やす方策の実行が必要。Society 5.0が実現すれば、中央と地方の距離感が解消され、若年層の活躍と地方活性化という成長戦略の二大目的を同時に達成できる。経団連ビジョンはすでに実行段階に入っている。正直、勤勉、知恵の活用という日本元来の強みを活かし、行動あるのみ。
久保田 政一(司会:経団連事務総長)
- ■ 「豊かで活力ある日本」に向けて
- 今こそ課題解決のチャンスである
- ■ 揺れる世界の政治経済情勢のなかでのグローバリゼーションの推進
- 不安定要素をしっかり分析し、グローバリゼーションを推進する
- 通商における新たな「変数」の出現
- Society 5.0の実現が、インフラシステムの海外展開を後押しする
- 自由貿易体制を堅持・拡大していくために
- ■ イノベーションの創出、Society 5.0に向けた社会・制度改革
- Society 5.0の理解浸透に向け官民連携で多方面に発信を
- フィンテックをめぐるグローバル競争の激化
- Society 5.0の「光と影」を国民に説明することが大切
- ■ 人口減少のなかでの日本経済・社会の発展
- 若年層の活躍と地方活性化の実現を求める
- 企業には「オープン」な体制づくりが不可欠
- 経済界を代表して言うべきことはきちんと言う
- 「2020年PB黒字化」の旗は絶対に降ろしてはいけない
- ■ 経団連が果たすべき役割
特別寄稿
70年の節目にあたって
安倍 晋三(内閣総理大臣)
- はじめに
- 働き方改革とイノベーションの促進
- 自由で公正な経済秩序の構築
- 地球儀を俯瞰した外交の展開
- 結び
名誉会長インタビュー
世界経済の安定と持続的な成長はもとより、自由な貿易・投資の維持・拡大、環境・エネルギー、テロ対策など地球規模の重要課題が山積するなか、わが国が今後いかに成長を図り、どのような社会を目指し、国際社会をリードしていくのか、内外の期待と関心が高まっている。そこで、創立70周年という節目を迎えた経団連がこれまで果たしてきた役割や今後の使命を明らかにしつつ、今後の日本と世界を展望する。
世界から尊敬される国であれ
豊田 章一郎(経団連名誉会長/トヨタ自動車名誉会長)
- 2020年の日本を念頭に「経団連ビジョン」をつくる
- アフリカの難民キャンプを訪問
- 人材育成とものづくりが日本の生命線
失われた20年ではなく、日本再生の基礎固め20年
今井 敬(経団連名誉会長/新日鐵住金名誉会長)
- 日本発の金融恐慌を回避する
- 産業の競争力強化に取り組む
- 諸外国との交流、日経連との統合
- 政治とは一定の距離を保つべき
技術の力で未来を切り拓き、「惻隠の情」をもって安心で明るい社会を築いていく
奥田 碩(経団連名誉会長/トヨタ自動車相談役)
- 一心不乱に取り組んだ4年間
- 小泉政権とともに構造改革に取り組む
- 文明論的な視点で技術立国の議論を
経団連は「国のシンクタンク」であれ
御手洗 冨士夫(経団連名誉会長/キヤノン会長CEO)
- 「政冷経熱」のなか日中関係改善に尽力
- 「希望の国、日本」を目指して
- 引き続き税財政・社会保障の一体改革はじめ重要課題に取り組んでほしい
民間の知恵と力で日本経済を再生させ、成長を続ける
米倉 弘昌(経団連名誉会長/住友化学相談役)
- 東日本大震災の復旧・復興に尽力
- 日EU EPA実現のために、ボトムアップで機運醸成
寄稿
世界の中の経団連
反グローバリズムを乗り越え、豊かな未来の実現を目指す
岩沙 弘道(経団連審議員会議長/三井不動産会長)
- 反グローバリズムとの対峙
- 経済団体が果たすべき役割
- 各国との継続的な対話の重要性
- G7各国との連携を強化し、わが国もリーダーシップを
経団連創立70周年に寄せて
デイブ・ライカート(米国下院歳入法特別小委員長(共和党、ワシントン州))
内外の各界オピニオンリーダーに聞く ―日本・世界の未来像
次なる70年に向けて日本経済のけん引を期待
二階 俊博(自由民主党幹事長)
2030未来展望と日本の役割 ―希望と活力溢れる共生の成熟社会を目指して
山口 那津男(公明党代表)
企業の活力を引き出すリード役として
黒田 東彦(日本銀行総裁)
世界自由貿易体制強化と経団連の役割
岩田 一政(日本経済研究センター理事長)
2030年に臨んで、今産学でなすべきこと ―経団連への期待を込めて
五神 真(東京大学総長)
自由で公正な国際経済秩序の維持に向けて
ヘルマン・ファン=ロンパイ(元ベルギー首相・元欧州理事会議長)
緊密化する外交と経済活動
細谷 雄一(慶應義塾大学法学部教授)
環境自主行動計画の役割の評価とその強化への期待
浅野 直人(福岡大学名誉教授)
時代の転換期
森田 朗(津田塾大学総合政策学部教授/前国立社会保障・人口問題研究所所長)
健康ファーストで「地域から世界へ」
横倉 義武(日本医師会長)
「明日への希望」づくりに向けた社会的役割の発揮を
神津 里季生(日本労働組合総連合会会長)
「労働」政策の広がりと経営者団体の役割
山川 隆一(中央労働委員会会長)
働き方改革、そしてダイバーシティへ
村木 厚子(前厚生労働事務次官)
2020年オリパラ大会の意義とその先のレガシー創造に向けて
丸川 珠代(東京オリンピック・パラリンピック担当大臣)
産学の協働を通じて、世界に誇る「教育立国」の再興を
鎌田 薫(日本私立大学連盟会長/早稲田大学総長)
教育改革を推進する企業の役割
柳沢 幸雄(開成学園校長)
経団連の70年の歩み(年表)