根岸修史 (経団連起業・中堅企業活性化委員長/積水化学工業会長)
経団連は、「『新たな基幹産業の育成』に資するベンチャー企業の創出・育成に向けて」を取りまとめた。このなかでは、(1)大企業・大学・VC・ベンチャー企業の連携促進、(2)科学技術イノベーション政策との連動、(3)大学をハブとしたベンチャー創出・育成、(4)産学官一体となった地方における「起業」拠点の確立の推進、を提言している。「ベンチャー・エコシステム」の構築が日本再興の鍵となる。それに向けた人材の好循環を進めるために、大企業の社員こそ、一定期間ベンチャー企業と人材交流することが重要だろう。
各務茂夫 (東京大学教授・産学協創推進本部イノベーション推進部長)
特許権などの知的財産が大学のアセットとして注目されるなか、東京大学では、2004年に産学連携本部(現・産学協創推進本部)を発足させ、大学専属のVC等も創設し、以来大学発ベンチャーの創出を強力に推進してきた。一方、既存の主として大企業との連携については現在、年間約1600件の産学共同研究が行われており、大学と企業との共同発明は300件を超える。しかし、残念ながらその多くは企業内で事業化されず埋没したままである。こうした技術をカーブアウトして事業化を検討することができるのではないか。大学としても、研究成果が学術論文にとどまるのではなく、イノベーションを創出するためにはビジネスへののりしろが出た「ショーケース化」を図っていきたい。
秋池玲子 (ボストンコンサルティンググループ シニア・パートナー)
地方創生の議論が進むなか、どの地方自治体もベンチャー企業に関する取り組みを積極的に行っている。しかし、これまでの工場誘致のような「雇用ありき」でとらえると、芽が出るのに時間がかかるベンチャー企業に失望する地方自治体も少なくない。地方が本気でベンチャー企業育成に取り組むのであれば、根気強く見守る覚悟が必要だ。日本のベンチャー企業の課題として、エグジットの問題がある。IPOを目指すだけでなく、大企業に売却して事業を成長させるという選択肢にも光を当てるべきだ。
出雲 充 (ユーグレナ社長)
ベンチャー企業の使命には、大企業が取り組みにくい、成果が出るまで数十年かかる研究開発を忍耐強く進めることや、一定の規模感が出るまで時間のかかる事業に取り組むことも含まれている。大企業とともにベンチャー企業がオープンイノベーションを推進していくためには、ベンチャー企業の顕彰・評価を行っていくこと、ベンチャー企業が求める人材を大企業が貸し出すような制度をつくることが必要である。そうしたなかで、日本社会にベンチャーを応援する風土がさらに醸成されていくだろう。
高橋 誠 (司会:経団連起業・中堅企業活性化委員会企画部会長/KDDI代表取締役執行役員専務)
KDDIは、企業によるスタートアップ支援として、(1)アーリー/ミドルステージのベンチャーへの出資を基本としたファンド(KDDI Open Innovation Fund)と、(2)シード/アーリーベンチャーのアクセラレーションプログラム(KDDI ∞ Labo)を、2011年に発足させた。後者においては、これまでのコーポレートVCの失敗を踏まえ、「Give First」の精神で、31社のパートナー企業が自社のアセットをベンチャー企業に提供している。昨年からは地方自治体とも連携し、地方の起業家への支援も展開している。
- ●日本のベンチャー企業をとりまく状況
- 産業活性化のためにベンチャー企業の創出・育成は急務
- 国立大学法人化からの12年間を振り返って
- 地方は長い目でベンチャー企業を見守る覚悟が必要
- ベンチャー企業の二つの使命
- スタートアップ支援のために企業は何ができるか
- ●資金・知や技術・人材が好循環する「エコシステム」の構築に向けて
- 大企業とベンチャー企業の人材交流を制度化する
- 産学共同出資でカーブアウトベンチャーを成功させたい
- 素材・化学分野に特化したベンチャーキャピタルを設立
- 地方は「国家戦略特区」を活かせるか
- ●政府・産業界が一丸となって進めるべき取り組み
- 大学をハブとした産業クラスター形成を
- ベンチャーを応援する風土づくりに向けて
- 研究成果の「ショーケース化」が必要
- 事例と知見を蓄積していくことが必要