2008年末からの経済危機以降、世界経済の先行きは一段と見通し難くなったように感じている。そうした状況のもとで仕事をしていくうえでは、これからの世界について、何らかのビジョンを持っていることが重要だろう。
私自身は、世界の将来像として、「つながって豊かになる」というイメージを持っている。「つながって」というのは、国や企業、人の関係の一体化が世界規模で進むと同時に、その関係がより緊密になっていく、グローバル化の潮流そのものを指している。これは、シルクロードの成立や、大航海時代など、古くから連綿と続いてきた潮流であるが、近年では、インターネットの浸透に象徴される情報技術の飛躍的な進歩や新興国の台頭が、経済関係緊密化の流れを格段に加速させている。
「豊かになる」というのは、近年のグローバル化の特徴である。過去のグローバル化は、それぞれの時代に、経済力や技術力を有した一握りの地域の勢力が、世界各地に進出し発展していくという意味合いが強かった。しかし近年では、先進国の企業が新興国で新たな成長の舞台を得る一方、新興国は先進国への輸出や先進国からの資金、技術、ノウハウの移転によって発展を加速させるという互恵関係が成立している。その結果、今日の世界では、人と人、国と国とがつながることで、先進国と新興国の双方で、より多くの人々が豊かさを実現していける状況が生じている。今、築かれつつある、TPP(環太平洋経済連携協定)をはじめとする経済連携の枠組みは、その状況を一段と強く確かなものにしていく土台となるに違いない。
世界とのつながりは、東日本大震災で被災した地域の産業基盤の再構築においても大きな意味を持つ。震災直後の救援活動においては、国内のみならず世界中から支援の手が差し伸べられ、「絆」という言葉がその象徴となったが、今度は、日本から世界につながりを求めていく番だ。新たな「絆」が開く未来に期待したい。