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Policy(提言・報告書)  環境、エネルギー パリ協定を踏まえた今後の地球温暖化対策に関する提言

2016年10月18日
一般社団法人 日本経済団体連合会

1.新たな局面を迎えた地球温暖化対策

2015年12月、フランス・パリで開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)において、京都議定書に代わる新たな国際枠組みとなる「パリ協定」を含むCOP決定が採択された。パリ協定は、先進国・新興国・途上国を含むすべての主要排出国が地球温暖化対策に取り組むことを約束する歴史的な一歩であり、わが国経済界がかねてから求めてきた国際枠組みである。今後、国際社会は、すべての主要排出国の参加を得たパリ協定のもとで、公平性・実効性を確保しながら地球温暖化対策に取り組んでいくことが求められる。

わが国としても、パリ協定の詳細ルールの策定に貢献することはもとより、「環境と経済」を両立しつつ、わが国が「約束草案」として国連に登録した「2030年度に2013年度比26%削減」という中期目標の達成に国を挙げて取り組む必要がある。あわせて、低炭素技術の開発や、削減ポテンシャルの大きい途上国等海外への技術移転に取り組むべきである。

経済界は、中期目標達成に向けた対策の柱と位置づけられた「経団連 低炭素社会実行計画」を着実に推進し、地球規模の温室効果ガス削減に貢献していく。

2.国際枠組み
─実効性・国際的公平性が担保された枠組み構築への貢献─

(1)基本的考え方

前述のとおり、パリ協定は、すべての主要排出国が地球温暖化対策に取り組むことを約束する、極めて重要な国際枠組みである。本協定は、世界の主要排出国・地域である、中国、米国、EU、インドが既に批准・受諾を決定しており、近く発効する見込みである。

こうしたことから、日本としても、国際社会における責任を果たしていく観点から、速やかにパリ協定批准に向けた国内手続きを進めるべきである。

同時に、以下の主要課題について議論を深め、地球規模での対策を推進することが重要である。

(2)国際レビュー

パリ協定を含むCOP決定のもとで、各国は自国の取組みに関する情報を国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局に隔年で報告し、提出した情報は、国際的なレビューに付されることとされている。今後の国際レビューに関するルール作りでは、各国の対策の実効性と国際的公平性を確保することが、地球規模での排出削減に不可欠である。

パリ協定においては、締約国が自国の「貢献」(温暖化対策への取組み)を約束(プレッジ)し、その進捗について、定期的に国際的な評価(レビュー)を受ける「プレッジ&レビュー型」の仕組みが採用されている。これは、わが国経済界が「経団連 環境自主行動計画」「経団連 低炭素社会実行計画」を通じて長年実践し、着実な成果を上げてきた手法と同じものである。わが国は、これら自主的取組みで培った「プレッジ&レビュー」の経験や知見を、世界に向けて積極的に発信し、ルール作りに貢献していくべきである。

例えば、わが国経済界の自主的取組みには、各業種の事業活動における削減はもとより、国際貢献や技術開発への取組みなども含まれており、各業界の特性や事業環境、取組状況等に配慮しつつ、第三者が透明性ある形で、多面的なレビューを実施している(別添資料「地球温暖化防止に向けた日本経済界のチャレンジの軌跡」を参照)。パリ協定におけるレビューにおいても、各国の「貢献」に掲げられた、特定の基準年からの削減率の多寡を比較するのみならず、単位GDP当たり排出量や、セクター別エネルギー効率、利用可能な最良の技術(BAT)の導入状況、限界削減費用など、ボトムアップの観点から、多面的な評価を実施する仕組みとすべきである。

また、2020年から5年毎に実施される各国の「貢献」の更新に際しては、更新時点における各国のエネルギー・温暖化政策の状況および将来見通しを踏まえ、野心的でありながらも、地に足の着いた検討が行われることが期待される。

(3)国際貢献

地球規模の削減に貢献するため、わが国の有する世界最先端の省エネ・低炭素型の技術・製品・サービスを、途上国をはじめとする各国にビジネスベースで展開していくための環境整備が求められる。

これに関連し、パリ協定には、締約国同士が自主的に協力して緩和の成果を国際的に移転するメカニズムに関する規定が盛り込まれた。同メカニズムは、世界的な排出削減と吸収に貢献するため、日本がこれまで推進してきた、途上国への技術移転や対策の実施を行う仕組みである二国間オフセットメカニズム(JCM)に該当するものと評価できる。

緩和成果の計測は、今後、国連で採択されるガイドラインに準拠することが求められている。そこで、わが国としては、世界全体での削減を図るため、ガイドラインに関する交渉を通じて、簡素かつ国際的に共通利用可能な方法論を確立するなど、JCMの利便性を向上させるとともに、日本の国際貢献や技術開発による削減貢献分を「見える化」して示していくことで、わが国の海外貢献を促す環境を整備していくことが重要である。

また、今後は、途上国にも温室効果ガスのインベントリの作成が求められている。そこで、国際レビューを実効あるものとすべく、インベントリ作成に関するわが国の知見を提供していくべきである。

(4)革新的技術開発

長期の大幅な温室効果ガス削減のためには、革新的技術の開発が不可欠である。日本も参加する国際イニシアティブ「ミッション・イノベーション」は、エネルギー環境技術のイノベーションを世界規模で加速させる取組みと評価できる。加えて、各国が革新的技術開発に取り組む意義や協力方策について、日本政府が主催するICEF(Innovation for Cool Earth Forum)などの国際会議等を通じて国際的に発信することも有効である。

(5)資金支援

途上国への資金支援について、パリ協定では、先進国はUNFCCCのもとでの資金提供の義務を継続することとされた。一方、先進国以外の締約国は、自主的な資金の提供・支援を行うことが奨励されたものの、義務とはされていない。

しかしながら、資金拠出の支援国・非支援国について、1990年代以降の新興国経済の急速な成長を踏まえれば、UNFCCC以来の「附属書Ⅰ国」「非附属書Ⅰ国」の硬直的な分類にとらわれるべきでない。先進国のみならず新興国も含め、十分な能力を持った国かどうかを基準として、幅広く資金拠出を促す仕組みを構築していくことが重要である。

また、現在、UNFCCCの資金支援のツールとして、途上国の排出削減や適応策を支援する「緑の気候基金」(GCF)が存在する。このGCFと、「気候技術センター・ネットワーク」(CTCN)を通して行う気候変動対策に関わる技術支援を有機的に連携させていくことにより、環境性能に優れた技術・製品の途上国等海外への普及を図るべきである。わが国は、経済界が有する低炭素型技術に係る知見の提供と、拠出した資金のモニタリング等を通じ、両メカニズムの実効ある運営に貢献することができる。

3.国内対策
─地球規模の課題解決に向けたわが国の中長期的な取組み─

(1)基本的考え方

まず、わが国が全力を挙げて取り組むべきは、「約束草案」として国連に登録した、中期目標(温室効果ガス排出量を2030年度に2013年度比で26%削減)の達成である。

温室効果ガスの大幅な削減は、企業活動や国民生活に大きな影響を与えることから、「環境と経済」の両立が必要不可欠である。同時に、温室効果ガスの大幅削減に不可欠な革新的技術の開発や、既存の製品・設備・インフラ等の省エネ・低炭素型への更新、途上国等海外への技術移転等を進めるためには、その原資を確保しなければならない。温暖化対策の前提条件として、持続的な経済成長の実現が必要であることを常に念頭に置く必要がある。とりわけ、わが国では、温室効果ガスの約9割はエネルギー起源CO2が占めていることから、温暖化対策とエネルギー政策の連携が極めて重要となる。

また、長期にわたる大幅な排出削減には、イノベーションが必須である。イノベーションは、毎年連続的に生じるものではないことから、ある特定の削減率から直線で毎年の削減率を割り戻す、バックキャスト的な考え方を取ることは不適切である。

長期の目標について、パリ協定では、世界の平均気温上昇を、産業革命以前よりも2℃より十分低い水準に抑えるとともに、1.5℃までに制限するために努力することが記載されている。この目標は、世界全体で目指すものであることから、世界の温室効果ガス排出量シェアが3%程度の日本としては、自国での排出削減のみならず、革新的技術開発や、削減ポテンシャルの大きい途上国をはじめとする海外への技術・製品の展開・普及を図ることにより、地球規模・長期の削減に貢献していく姿勢を前面に示していくべきである。

(2)中期目標「2030年度26%減」の達成に向けた取組み

2030年度の中期目標は、わが国が1970年代のオイルショックから現在までに達成したエネルギー効率の改善と同程度の省エネを、今後15年間で追加的に実現することを求めるものであり、極めて野心的な目標である。

2016年5月には、「約束草案」の実現に向けた「地球温暖化対策計画」が閣議決定された。今後、中期目標の着実な達成に向け、目標算定の基礎となった2030年度のエネルギーミックス(原子力:20~22%、再生可能エネルギー:22~24%、火力:56%)を実現していくとともに、「地球温暖化対策計画」に基づき、部門・対策毎にPDCAサイクルを展開し、フォローアップを実施していく必要がある。その際、特定の部門で期待される成果が上げられなかった場合に、他部門にさらなる削減を求めることは適切ではない。

経済界は京都議定書第一約束期間(2008~2012年度)において、「経団連 環境自主行動計画」を通じて、CO2排出量を「1990年度と同水準に抑える」との統一目標を掲げ、PDCAサイクルを回した結果、1990年度比で12.1%の削減を実現するなど、目標を大幅に上回る実績を挙げた。経済界は引き続き、「地球温暖化対策計画」の柱に位置づけられた「経団連 低炭素社会実行計画」を着実に推進し、約束草案に掲げた中期目標の実現に貢献していく。

一方、CO2の排出増加傾向が続いている民生部門では、2030年度までに約4割削減することが求められている。とりわけ、家庭部門の排出量は過去20年間で約1.5倍に増加していることから、実効ある国民運動の推進等を通じ、環境省が責任を持って、家庭部門4割削減の目標達成を確実なものとすべきである。

なお、排出量取引制度や炭素税をはじめとする規制的手法は、企業に直接の経済的負担を課す手法であり、経済活力に負の影響を与えるのみならず、企業の研究開発の原資や、社会の低炭素化に向けた投資意欲を奪い、イノベーションを阻害するものである。経済界は、こうした規制的手法の導入に反対する。既に導入されている施策については、廃止も含め抜本的に見直すべきである。また、国民に広く多面的な便益をもたらす森林吸収源対策のための費用は、一般財源で手当てすべきであり、法人負担を伴うような新税は創設すべきでない。

(3)2030年以降の長期の地球温暖化対策に関する考え方

パリ協定に掲げられた長期目標を実現する温室効果ガス濃度については、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次影響報告書においても大きな不確実性が残っており、必要とされる削減量に関するコンセンサスは得られていない。そのため、引き続き、気候変動に関する科学の知見を蓄積していく必要がある。

また、パリ協定を含むCOP決定は、すべての締約国に対し、今世紀中頃を念頭に置いた長期の温室効果ガスの低排出発展戦略(長期戦略)を作成し、2020年までに提出することを招請している。エネルギー起源CO2が温室効果ガスの約9割を占める日本としては、安全性の確保を大前提に、既存の原子力発電所を最大限活用するとともに、リプレース・新増設も視野に入れて、将来のエネルギー需給構造や、エネルギーコスト、エネルギー安全保障といった点を踏まえ、実現可能性を考慮しながら、丹念な検討を行う必要がある。そうした観点から、特定の削減率ありきで、温室効果ガスの削減経路を将来の時点から直線的に描くことは非現実的であり、バックキャスト的な考え方を取ることはふさわしくない。

一方、わが国の中期戦略であるはずの「地球温暖化対策計画」では、経済成長と両立させながら「2050年80%の温室効果ガスの排出削減を目指す」という長期目標が盛り込まれた。「2050年80%」という数値は、政府が東日本大震災以前に掲げていた目標であり、本来であれば、震災後のわが国のエネルギー事情の変化等を踏まえた慎重な検討が行われるべきであった。長期戦略の検討にあたっては、数値目標を掲げる必要性やその妥当性、戦略の位置付けなどについて、改めて議論すべきである。

「地球温暖化対策計画」に掲げられた長期目標については、わが国の長期のエネルギーミックスの見通しや「エネルギー基本計画」の見直しについて議論を行い、また、わが国の経済や雇用、産業競争力等に与える影響についてもしっかり検証し、不断に見直していくことが求められる。

温室効果ガスの長期かつ大幅な削減は、具体的施策を積み上げた中期目標の実現とはフェーズが異なるものである。すなわち、中期目標において、既存の技術がほぼ社会全体に浸透していることが想定されているため、従来の取組みの延長線上では、経済成長と両立させつつ、長期にわたって大幅な削減を図ることは困難である。その実現には、イノベーション、すなわち革新的技術の開発と社会実装が不可欠となる。経済界は、イノベーションの主たる担い手として、今後とも積極的に取り組んでいく。政府には、民間では担うことのできない分野への研究開発投資の拡充をはじめ、イノベーション創出の環境整備に注力することが求められる。

なお、イノベーションを阻害する国内排出量取引制度などの規制的手法は、革新的技術開発の原資やインセンティブを損なうことから、長期であるほど温暖化対策としての効果がなく、いかなる時点においても、経済界は導入に反対する。

わが国は、人口減少や高齢化をはじめ、克服すべき課題が山積している。前述のとおり、温暖化対策の推進には経済成長の実現が必要である。長期の温暖化対策は、こうした課題の克服に向けた政策との連携にも留意し、経済成長と両立する形で推進していく必要がある。

経済界は引き続き、PDCAサイクルを着実に回しながら「経団連 低炭素社会実行計画」を推進し、計画の4本柱である「国内事業活動での排出削減」、「主体間連携(製品による貢献)」、「国際貢献」、「革新的技術開発」を通じて、地球規模・長期の温暖化対策に貢献していく所存である。

以上

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