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Policy(提言・報告書)  地域別・国別 中東・アフリカ サブサハラ・アフリカの持続可能な成長に貢献するために ~TICAD Vに向けた経済界のアフリカ戦略~

2013年1月22日
一般社団法人 日本経済団体連合会

I はじめに

サブサハラ・アフリカ(以下、アフリカ)は、名目GDPが5700億ドル(2001年)から1兆6000億ドル(2010年) へと、過去10年で約2.8倍に拡大し、最後のフロンティアとして注目されている。わが国企業は近年、中間所得層が増えているアフリカを潜在性のある有望な消費市場と捉えはじめているほか、石油、天然ガス、鉱物資源等の供給基地としての役割にも期待を寄せている。日本企業は、南部アフリカ(アンゴラ、ボツワナ、モザンビーク、ナミビア、南アフリカ、ザンビア、ジンバブエ)、東アフリカ(エチオピア、ケニア、南スーダン、タンザニア、ウガンダ)、西アフリカ(ガーナ、ナイジェリア)において既にビジネスを行っているか、あるいはこれらの国に関心を有している。また、以下の観点から、アフリカでの将来の事業展開を検討している企業もある。

  1. 金属・エネルギー等の資源の重要な供給地であり、その潜在的成長力を他国に遅れることなく取り込みたい。
  2. 電力、運輸、通信、ICT等の分野で膨大なインフラ需要が見込まれ、ODAや民間資金を活用し、わが国が有する優れた技術・サービスを導入したい。
  3. 増大する食糧需要と農業セクターの発展に対応して、農産物や農薬等の市場として有望である。
  4. 人口増加に支えられた、将来の大規模市場として位置付けている。各国政府、現地パートナーとの結びつきを活用し、多角的にビジネスを展開することで地域社会に貢献したい。

このようなアフリカの潜在性を十分に引き出し、経済社会の安定と繁栄を実現するために、日本企業はその技術・ノウハウをもって貢献することができ、それは、新たな需要の取り込み等を通じて、わが国の国益に資するものである。なお、多様性に富むアフリカ諸国への協力は、上記諸国を中心に戦略的重点地域を特定した上で、国ごとの特性や発展段階に応じて個別具体的に進める必要がある。

アフリカ諸国の成長を持続的かつ安定的なものとするためには、まずボトルネックとなっている基幹インフラの整備を通じて、経済基盤を形成しなければならない。内陸国と沿岸国との連結性を念頭に、インフラ整備の面的展開を図り、資源・エネルギー開発、直接投資の誘致や産業振興のための基盤とすべく、早急な対応が求められる。これと並行して、現在進んでいる地域経済共同体の動きを念頭に、貿易投資の拡大、ビジネス環境の整備を図ることが重要である。

資源開発やインフラ開発は日本企業のアフリカビジネスとして先行している分野ではあるが未だ十分とは言い難い。日本企業が資源を確保するため、日本政府が既に実施している様々な支援策の維持拡大を求める。

【参考1】整備が必要な基幹インフラの事例
  1. 1.石油・天然ガス、鉱物資源開発ならびに周辺インフラ(鉄道、港湾施設、パイプライン等)
  2. 2.電力プロジェクト(火力、水力、原子力、再生可能エネルギー)
  3. 3.農業インフラ(日伯モ・プロサバンナ計画の推進、灌漑の整備等)
  4. 4.都市インフラ(電力、通信、上下水道、住宅、道路等)
  5. 5.治安・医療インフラ(生体認証を活用したICTシステム、医療サービス等)

アフリカでは10年ごとに3億人の割合で人口が増加しており、国連の推計によると、2050年には20億人を突破すると試算されている。そこで、持続可能な発展を実現するためには、農業開発を通じた食糧の安定的な生産の確保と雇用創出が一つの鍵となる。なお、農業開発は、これと表裏一体の関係にある水の確保と同時並行的に推進する必要がある。また、農業生産性を向上させることはもとより、流通機構等の改善により、市場への農産物の確実な供給を確保することが不可欠である。

このほか、持続可能な社会の形成のためには、人材育成の推進、環境問題への対応、医療水準の向上など、貧困を撲滅し、生活水準を抜本的に底上げするための施策が必要である。

わが国によるアフリカ支援に関し、経済界はTICAD IVの主な公約が概ね達成されたことを高く評価する。2013年6月のTICAD Vでは、「強固で持続的な経済」がテーマの一つに掲げられ、産業の発展と民間部門の重要性が議論されることとなっており、TICAD IVの成果をアフリカの実質的かつ具体的な発展につなげるための方策と、その際の官民の役割の明確化が求められる。そこで、TICAD Vに向け、日本の経済界は、アフリカの開発とわが国官民の戦略的な協力のあり方について以下の通り提言する。なお、各国・地域ごとの関心分野については、政府との政策対話を通じて、改めて意見を述べる。

【参考2】TICAD IVの主な成果
  1. 1.年間ODA供与実績の平均値(2008年~2011年)は18.1億ドルであり、2012年までに年間18億ドルを供与するとした目標を達成した。
  2. 2.わが国の対アフリカ民間直接投資残高は2010年末で52億ドルに達しており、2012年までに34億ドルという目標を達成した。
  3. 3.JBICアフリカ投資ファシリティによる金融支援は、TICAD IV以降、約29億ドル(2012年8月末)であり、5年間で25億ドルという目標を達成した。

II インフラ整備による成長エンジンの活性化

1.官民連携による日本の強みを活かしたインフラ整備

(1)戦略的マスタープランの策定

アフリカ諸国では、下記の通り、あらゆる基幹インフラが不足し、経済成長のボトルネックとなっている。

  1. 道路・鉄道等運輸インフラが未整備のため、内陸国での産業集積が進まない。また、鉱物資源が豊富であるにも拘わらず、開発が進まない、あるいは物資の輸送にコストがかかり、他の地域と比べて価格競争力が劣る。
  2. 石油・ガスパイプライン、貯蔵施設、港湾での積出設備が不足しているため、資源開発が進んでいない。
  3. 港湾施設が未整備のため積出が常に混雑しており、海上運賃も高額である。
  4. 電力インフラが未整備のため、安定的な電力供給が確保できず、製造業等の操業に影響が生じている。また、送電網の不足により、発電所から消費地への送電が不十分であり、産業集積が進まない。
  5. 通信インフラが脆弱であり、企業が進出する際はある程度自前で調達・整備する必要があるため、他地域に比べてコストが嵩む。

これらの問題を解決し、力強い経済発展の基盤を形成するためには、複数国にまたがる広域インフラを面的に展開するマスタープランの策定が必要である。こうしたマスタープランの策定は、日本が強みを発揮して協力できる重要な分野であり、わが国政府のリーダーシップを求める。

マスタープランは、日本企業の進出地域を対象とし、今後の地域経済統合を見据え、内陸国と沿岸国の連結性を強化する内容であることが求められる。また、マスタープランを着実に実施する観点から、これを継続的にフォローアップする、日本の官民と相手国の政策対話の枠組を設けるべきである。

(2)選択と集中による資金協力の推進

マスタープランに基づくインフラ整備事業も、日本企業が技術力を活かして貢献できる分野である。しかし、基幹インフラの整備には膨大な資金を要することから、政府の支援が欠かせない。TICAD Vのための予算枠を設け、円借款、無償資金協力の規模を拡大すると共に、JICA海外投融資の機動的かつ柔軟な供与、JBIC投融資の活用条件の緩和、投資リスクをヘッジする投資保険の拡充等を通じて民間事業を支援すべきである。

アフリカ諸国では、旧宗主国や新興国がそれぞれの強みを発揮して国際協力を行っている。そこでわが国としても、日本企業の技術力を活かせる分野に特化し、選択と集中で戦略的に対応する必要がある。その際、当該事業に関与する企業が当面一社となるケースであっても資金供与の対象とする(いわゆる一社支援)など、柔軟な措置が求められる。

無償資金協力については、大型インフラ案件を推進する観点から、複数年(例えばTICAD VからTICAD VIまでの5年間あるいは、さらに長期間)に亘る資金拠出にコミットするなどの手法を引き続き採用すべきである。

円借款については、外貨建や現地通貨建の導入を進めることで、借り手側の為替リスクの低減を図るべきである。また、日本の強みを発揮するため、プロジェクトの運営・メンテナンス等も円借款の対象とし、本邦技術活用案件(STEP)を積極的に推進すべきである。さらに、有償資金協力勘定の利息を活用した低利円借款や技術協力の早期導入を求める。

(3)政策対話の推進

官民連携の強化に向け、ODAタスクフォースを引き続き積極的に活用するほか、民間人材の登用を含むインフラ専門官の機能強化や現地日本大使によるトップセールスの推進が求められる。また、JICA現地事務所等を窓口に、アフリカ開発銀行等の国際機関との政策対話を推進し、わが国の対アフリカ戦略と平仄のとれた事業展開を働きかけることで、わが国の拠出金を有効活用すべきである。

2.ホスト国の制度整備

日本企業の強みを活かし、官民連携でソフト・ハード両面の広域インフラ整備をパッケージで展開していくためには、PPP法制をはじめ、ホスト国における制度設計ならびにその適切な運用が急務であり、当該各国には以下の対応が求められる。

  1. プロジェクトの入札評価が価格本位で決まるため、日本の技術が考慮されないことから、質の高いインフラの普及に貢献できる技術やライフサイクルコストを評価する入札制度を整備する。
  2. ODA案件の関税免除等の合意事項を確実に実施する。
  3. 電力不足を解消すべく、IPPによる発電所建設を奨励している国において、電力の買取り契約に関する法制を整備する。
  4. 土地収用、住民移転等ホスト国側の義務を着実に実施するための体制をつくる。

わが国政府は、これらの実現を当該国に働きかけると共に、その円滑な推進のため、法制度整備支援を通じた一層の協力を行うべきである。

III 貿易投資の活性化

1.物品貿易・サービス貿易・投資等の自由化推進

(1)投資協定、経済連携協定の締結

アフリカ諸国の経済成長を実現するためには、関税・非関税障壁の改善を通じて貿易を活性化すると共に、直接投資を推進することで、雇用の創出、技術・ノウハウの移転、ならびに現地企業の育成を図ることが不可欠である。現在、わが国はモザンビーク、アンゴラとの投資協定交渉を行っており、これらの早期妥結を図ると共に、南部アフリカ開発共同体(SADC)や東アフリカ共同体(EAC)等、アフリカ各地域の経済共同体との間で経済連携協定(EPA)を締結することも視野に入れた取組を推進すべきである。なお、アフリカでは、第二次産業に比べ、第三次産業従事者の割合が多いため、雇用創出の観点から、上記の交渉では、まずはサービス産業を中心に拠点設置ならびに業務展開のための直接投資の自由化を求めていくことが必要である。

(2)関税の引き下げ、適正な課税手続

関税障壁としては、(1)EAC諸国において域内共通関税が定められているにも拘わらず、実際は各国独自の関税率が適用されている例がある、(2)特定の国からの輸入に対し、明確な協定に基づくことなく関税が免除される等の不公平な取り扱いが行われている、(3)平均関税率が高く、試験的な小規模ビジネスを推進する上で弊害となっている等の問題がある。わが国政府は、EPA交渉等を通じて、関税の引き下げならびに関税制度の適正な運用と執行が貿易活性化に貢献することを説明し、当該国に改善を促していく必要がある。

(3)非関税障壁の撤廃

非関税障壁についても、(1)国境通関手続の遅延、法令・規則の頻繁な変更ならびに不透明な運用、(2)過度な出荷前検査の義務付け等の改善が必要である。なお、国境での通関手続については、わが国政府が「TICAD IV横浜行動計画」に基づき、税関職員の研修、法制度整備支援等を含むワンストップボーダーポスト(OSBP)支援を実施しており、今後ともこれを継続・拡大しながら、当該国に非関税障壁の撤廃を働きかけていくべきである。

(4)投資・サービスの自由化

投資・サービス分野に関しては、(1)外資比率制限、(2)インフラ案件での過度なローカルコンテンツ要求、(3)外国人雇用制限・自国民雇用義務、技術移転要求、人材育成の義務化等のパフォーマンス要求、(4)輸出条件としての製品の高付加価値化要求、(5)ガス・石炭事業での一定数の国営企業、地場企業との合弁の義務付け、(6)ロイヤルティ送金に関する規制といった障害があり、二国間投資協定の締結等を通じてこれらの解消を図るべきである。とりわけ、ロイヤルティ送金の上限額や期間に関する規制の撤廃は、アフリカへの技術移転を円滑に進める上で不可欠である。現在交渉中の「日モザンビーク投資協定」に本件に係る条文を盛り込み、これを他の投資協定の雛形とすべきである。

(5)人の移動の円滑化

貿易投資を活性化するためには、現地においてサービスの提供や製造業に携わる駐在員、商談等のために訪れる出張者の円滑な出入国を保証する必要があり、各国には就労ビザの発給手続の簡素化・迅速化、更新手続の合理化が求められる。わが国政府は、人の移動の円滑化の利点を当該国に説明しつつ、その早期実現を働きかけるべきである。

2.ビジネス環境整備

関税の引下げや直接投資に対する規制の緩和が進んでも、ソフト・ハード両面においてビジネス環境が整備されない限り、企業の活動は活性化されない。海外展開に向けた動きを加速させているわが国の中小企業のアフリカ進出をサポートする上でも、二国間でビジネス環境整備に関する官民政策対話の場を設置し、国内法の不透明性、過度な国内規制、知的財産権に関する制度や税制の不備に起因する問題を解決すべきである。併せて、ビジネスに必要なインフラならびに各種優遇政策がパッケージ化された工業団地の整備が急務であり、わが国ODAの優先課題と位置付けて取組むべきである。

(1)国内法の透明性確保、過度な国内規制の是正

アフリカで事業展開する企業からは、(1)投資に関するルールが頻繁に変更され、その法的根拠も不明である、(2)法解釈について口頭で説明がなされても、その内容を証明する文書の発行に時間がかかる、(3)事務所登録等の手続が煩雑かつ恣意的である、(4)労働法制が過度な負担を生んでいる、といった指摘があり、当該国にその改善を求めていく必要がある。

なお、黒人権利拡大政策(いわゆるBEE政策)については、その主旨に賛同するものである。しかし、公共事業への参加に際して特定企業との合弁が求められるにも拘わらず、実際は適切なパートナーが存在せず、サービスの提供や技術移転が妨げられるなど、かえって本来の目的に反するケースも見られるため、事例に即し、柔軟な運用が求められる。

(2)知的財産権の保護

模造品や商標権侵害は企業の間の公正な競争を歪めると共に、創造的な活動のインセンティブを減退させることになる。新たな産業の育成や、技術を有する海外の中小企業による直接投資を促進する上からも、アフリカ諸国における知的財産権保護制度の確立が求められる。わが国政府としては、知的財産権保護の有用性を説明すると共に、ODAの技術協力を活用し、保護制度の導入・運用のための支援を行うべきである。

(3)税制上の課題への対処

税制については、二重課税を防止すべく、主要国との間で二国間租税協定の締結が求められる。また、消費税の還付手続が透明性を欠く、外国企業に対するみなし課税が高額である等の問題が指摘されている。わが国政府は、双方の税務当局を交えた交渉を通じて、当該国に改善を働きかけていくべきである。

(4)JICA、JETROの有効活用

わが国企業のアフリカ進出をサポートする観点から、わが国政府は、在外公館、JICA、JETRO、青年海外協力隊が有する現地情報を一元化し、民間企業に提供すべきである。経済界としても、青年海外協力隊への人材派遣や、OBの採用などを含め、連携強化の方策を検討していく。

(5)工業団地の整備

工業団地を設置すると共に、同地域を経済特区に指定し、免税等の投資優遇措置を提供することは、わが国企業、とりわけ中小企業の進出を助ける上で有効である。また、工業団地の整備は、電力、道路、港湾などこれに付随するインフラの整備をも促進する。わが国はベトナム、インドネシア、カンボジア、ミャンマーをはじめとするアジア諸国において、官民連携の下、工業団地整備の実績を有する。アフリカにおいても、重点国を特定した上で、アジアにおける工業団地に係るマスタープランづくりの経験を応用すべきである。

IV 農業開発への貢献

1.農業基盤整備の面的展開

アフリカにおいて人口が増大する中、農業基盤の抜本的な整備を通じた食糧の安定供給と雇用拡大が持続的成長を達成するための最優先課題となっている。かつて農業で成功していた国の農業が荒廃しており、まずは、その復旧が必要である。

わが国のアプローチとしては、例えば、ブラジル農業を飛躍させたセラード開発の経験を日伯政府が協力してモザンビーク西部のサバンナ地帯・ナカラ回廊に移植する「日伯モ・プロサバンナ計画」(2010年調印)を先行例としてあげることができる。同計画では、日伯両政府あわせて今後5年間(第1期)で約1300万ドルを投資し、民間企業が参加して農地開発を進めることが予定されており、食糧の増産、雇用拡大、零細農家の生活レベルの向上、さらには作物の輸出が期待されている。このような事例をモデルケースとして、横展開することで、広域にわたる農業開発を推進すべきである。

2.灌漑インフラの整備

農業開発に際しては、水の確保が最大の課題である。「TICAD IV横浜行動計画」では、灌漑地域面積の拡大、水資源管理のためのインフラの開発・修復・維持、農民組織の能力構築を通じた水資源管理能力の向上、小規模コミュニティが管理する灌漑設備に対する資金援助等が盛り込まれており、日本政府は、無償資金協力を活用して、こうした施策に引き続き取組むべきである。

3.市場アクセスの改善

農産物の安定的な生産を持続させる上では、市場への確実な供給のほか、肥料や農業用機材の円滑な流通が前提となる。例えば、ポストハーベスト技術の改善(加工技術の向上、流通ロスの削減、マーケティング・プロモーションの強化)など、バリューチェーン全体を俯瞰した総合的な政策が不可欠であり、ODAの技術協力予算によるわが国民間企業の専門家の活用が求められる。また、農業経営に関し、コンサルタント、JICA、青年海外協力隊を通じてわが国の知見と経験を移転することも重要である。併せて、無償資金協力、円借款、JICA海外投融資等を活用し、道路、コールドチェーン、穀物倉庫、港湾等の基礎的なインフラを整備することで、民間企業によるアグリビジネスが成立する環境をつくることが重要である。これらのインフラ整備が民間投資を促進し、民間投資によって質の高い農産物の生産・流通・販売網が確立されるという好循環を確立するものと期待できる。

V 持続可能な成長のための基盤づくり

1.人材育成

アフリカ諸国において雇用を促進するためには、現地で即戦力となる産業人材を効率的に育成し、就職に直結させる仕組みが不可欠である。JICAならびに海外産業人材育成協会(HIDA)が連携し、日本企業と現地のニーズに即した形で企業研修生受け入れプログラムを拡充すると共に、その柔軟な運用が必要である。

加えて、アフリカ諸国では、産業政策に精通した行政官を育成することが急務となっている。そこで、わが国産業政策の経験を共有する観点からも、政府間の人事交流を活発化させる必要がある。その一環として、現役の行政官や企業の人材等を各国に政策アドバイザーとして派遣し、わが国の経験に基づき、産業・財政政策に関する知見の展開を図るべきである。併せて、わが国政府は、ビジネス活性化の前提条件である健全なガバナンスの確立の重要性を当該国政府に強く申し入れるとともに、行政官の育成を通じて、その実現に貢献していくことが必要である。

日本企業はかねてより様々な形で現地の人材育成を推進しており、今後とも取組を強化・継続していく。

【参考3】人材育成に関する日本企業の取組事例
  1. 1.現地の技術系専門学生に就業体験プログラムを定期的に実施し、意欲的かつ有望な学生を採用し、現地雇用に貢献。
  2. 2.現地の工場に研修所を併設し、工場での製造に係る技術指導を実施。
  3. 3.人材開発・育成トレーニングを階層別・部署別に提供する等、現地人材の育成・登用を目的とした人材開発プログラムを実施
  4. 4.現地スタッフによる経営の実現に向けたグローバル育成プログラムを導入。

2.環境・エネルギー問題への対応

人口増加、経済成長に伴い、今後、アフリカにおけるエネルギー需要とこれに伴うCO2排出の増加が見込まれる。2011年にCOP17が南アフリカで開催されたことを契機に環境と経済を両立させた持続可能な成長への関心がアフリカ諸国でも高まっており、わが国としても優れた技術力を活かしてこれに貢献していくことが求められる。その一環として、アフリカ諸国で推進されている再生可能エネルギーのIPP事業を積極的に支援していくべきである。例えば、太陽光、風力発電は自然条件に左右され、発電効率が不安定であり、配送電システムへの負担が大きいことから、円借款等を活用し、わが国が力を入れているスマートグリッドの導入を図ることがあげられる。また、火力発電の高効率化に対する支援も強化していく必要もある。

アフリカ諸国は気候変動により砂漠化や安全な水の減少に直面しており、これらに対しても日本企業が有する技術を使って砂漠化防止や高効率浄水設備の導入などの支援を行っていく必要がある。さらに、日本政府が国連にも提案している二国間オフセット・メカニズムの活用によって、アフリカにおける気候変動対策の取組みの加速化が期待される。

3.医療分野の協力

持続可能な社会の構築と現地における安定した事業運営のためには、疫病やHIV等の感染症を撲滅することで、人々の健康増進を図っていく必要がある。アフリカの人々が等しく医療サービスにアクセスできるよう、公的医療保険制度を確立することがまず求められる。また、ODAの技術協力スキームの下、アフリカ主要国に医療分野の協力を推進するためのハブを構築し、医師、看護師等の研修、保健衛生・栄養に関する指導等を実施すべきである。その際、例えば母子手帳制度がアジア諸国における健康増進に寄与したケースなど、わが国特有の知見・経験に基づく成功例を横展開すべきである。日本企業は、医療機材の提供とそのオペレーションや、緊急度が高い状況での携帯電話を活用した治療の優先度の決定(トリアージ)支援システム等で協力することが可能である。なお、医療分野の協力は、現地における経験を有する内外の医療機関と連携し、効果的に推進することが重要である。

4.治安対策の強化

アフリカ諸国が貿易投資関係を維持、発展させるためには、諸外国とのシーレーンの安全確保が重要であり、特に、海賊対策が急務である。わが国としても、関係各国と連携し、アフリカ沿岸の海上保安対策に一層協力すべきである。

また、治安の向上は、安定した社会やビジネス環境を構築する上で不可欠な要素である。治安は貧困・失業問題と表裏一体であることから、経済の活性化、雇用確保、生活水準の向上を通じて犯罪を減らすことで、国内外からの投資が増え、これが更なる経済活性化に繋がるという好循環を創出することが求められる。わが国としても、警察人材育成のための技術協力や、生体認証システムを活用した治安対策の強化を推進すべきである。

VI 結びにかえて

上述の通り、TICAD IVの公約については数値目標を達成している。これを踏まえ、TICAD Vでは、より具体的に目に見える成果を挙げるべく、各国の特性に応じた社会政策、貿易投資政策の策定に向けた議論を展開すべきである。経済界は、「TICAD V推進官民連携協議会」(共同座長:岸田文雄外務大臣、坂根正弘経団連副会長)とも連携しつつ、本提言をTICAD Vの議論に反映させるべく、働きかけていく。また、官民連携の下でアフリカ諸国におけるインフラ整備に注力するほか、現在進捗しているアフリカ諸国との二国間投資協定交渉に民間の立場から意見を反映させていく所存である。

以上

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