1. トップ
  2. Action(活動)
  3. 週刊 経団連タイムス
  4. 2017年1月26日 No.3301
  5. 重要労働判例説明会を開催

Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年1月26日 No.3301 重要労働判例説明会を開催 -長澤運輸事件の概要と実務上の留意点

経団連は12月20日、東京・大手町の経団連会館で「重要労働判例説明会」を開催した。第1回となる今回は長澤運輸事件を取り上げ、第一協同法律事務所の山畑茂之弁護士が事案を解説した後、定年後再雇用における実務上の留意点を指摘した。説明の概要は次のとおり。

■ 労契法20条違反が争点

長澤運輸事件は、定年後再雇用者(有期雇用)と正社員(無期雇用)との労働条件の相違が労働契約法(労契法)20条に違反するとして争われたもの。労契法20条は期間の定めがあることによる不合理な労働条件を禁止している。一審の東京地裁は法違反を肯定したのに対し、2審の東京高裁では否定し、会社側の逆転勝訴となった。現在、最高裁に上告中。

■ 一審と二審の違い

同社では、乗務員は定年前と定年後でトラック輸送という同じ業務に従事し、責任や配置転換の有無・範囲で違いはないものの、異なる賃金体系が適用されていた(賃金は定年後、約二割の減額)。

労契法20条の考慮要素は、(1)職務の内容 (2)当該職務の内容及び配置の変更の範囲 (3)その他の事情である。一審では、(1)と(2)が同一であれば、賃金の相違の程度にかかわらず、正当と解すべき特段の事情がない限り、不合理であるとの評価は免れないとした。一方、二審では(1)(2)(3)を総合的に考慮して判断すべきとし、労働条件の改善を実施したことなどを(3)その他の事情として考慮した。二審の判断の方が妥当であろう。

また、定年後の再雇用は高年齢者雇用安定法により企業に義務づけられたものであり、その労働条件は定年前から下がることが一般的である。この点について一審では、定年退職後の継続雇用の際、(1)(2)が変わらないまま、賃金だけを引き下げる慣行は社会通念上相当とされていないと判断した。これに対し二審では、(1)(2)が変わらないまま相当程度賃金を引き下げることは広く行われているとしており、実態を直視した妥当な判示といえる。

■ 実務上の留意点

一審判決が取り消されたことで、定年前後の賃金差が違法とされない確率が格段に高まったが、二審でも有期契約による定年後再雇用は労契法20条の問題となるとしており、対策は必要である。

定年前後で業務内容(考慮要素(1))が異なる場合は、労契法20条違反が問題となるケースはほとんどないと思われる。定年前後で同じ業務を担当させてはいるが、考慮要素(2)に違いを設けた場合(定年後は配置転換がない等)は不合理性が認められにくくなると解されるので、可能であれば違いを設けるべきである。

◇◇◇

定年前後で、どの程度の賃金差であれば、労契法20条違反とならないかは、事案ごとに異なるので、線を引くことは難しいが、本件では(1)(2)が同じでも2割の差を許容しており、他の事例でも参考になる。また、労契法20条違反とされた場合に備えて有期契約労働者と無期契約労働者に適用される就業規則は独立した規程とすべきである。

重要労働判例説明会は、労働法規委員会委員企業を対象に、企業における労働法令順守に向けた取り組みを支援するため、経営法曹会議と連携して開催するもの。今後も重要判決を取り上げていく。

【労働法制本部】

「2017年1月26日 No.3301」一覧はこちら