富士通総研経済研究所主席研究員 |
榎並利博 |
民間企業にとって、マイナンバー対応が要求されるにもかかわらず、それをビジネスで利用できないとなると、余計な負担が増えるばかりのように感じられるかもしれない。しかし、マイナンバー法では、マイナンバー制度の推進を「他の行政分野及び行政分野以外の国民の利便性の向上に資する分野における利用の可能性を考慮して行われなければならない」と規定し、基本理念として民間活用を前提に考えている。そのためマイナンバー制度には、民間のビジネスにも役立つ仕掛けがいくつかある。
一つは、マイナンバー整備法で公的個人認証法が改正されたことだ。簡単に言えば、これまで行政機関だけでしか使えなかった公的個人認証が民間に開放される。例えば、金融機関が検証者となった場合、利用者は金融機関に出向くことなく、ネット上で公的個人認証を使って預金口座を開設し、そのまま自分の口座情報に安全にアクセスできるようになる。具体的には、利用者が公的個人認証の署名用電子証明書を使って申込書に電子署名を行い、預金口座を開設する。そして、今回追加された利用者証明用電子証明書(署名用電子証明書と対で管理)を使ってログインし、自分の口座にアクセスすることができる。このようにネット上での本人確認が簡単にできれば、電子商取引などが活性化できると期待されている。
また、マイナンバー法29条では、行政機関個人情報保護法等の規定における「法定代理人」を「代理人(本人の委任による代理人)」として読み替えるという規定がある。具体的には、マイ・ポータルを使った自己情報の取得を、委任状を書いて他の人に代理してもらうことが可能となる。税務以外の手続きにおいては法律上の規制がないとされているため、民間でも利用できる場面が出てくるかもしれない。例えば、住民票等の書類を添付する手続きがあった場合、お客さまの代理として自己情報(住民票等の情報)を取得・確認すれば、添付書類を省くことができる。このような使い方の可能性について、大いに議論が盛り上がることを期待したい。
さらに、マイナンバー法9条2項では、自治体が条例を制定することでマイナンバーの利用が可能となる。災害時の要援護者の支援など、官民で連携できるようマイナンバーを使うことなどが考えられる。「社会保障・税・防災、その他これらに類する事務」という範囲でのマイナンバー利用であるが、自治体の裁量が認められている領域であり、民間企業と自治体が地域のために何ができるかを考えていく契機となっていくだろう。
(クリックでPDF版表示) |