[経団連] [意見書]
「PFI事業の実施に関する基本方針」の策定に関するコメント
1999年11月12日
(社)経済団体連合会
国土・住宅政策委員会
PFI推進部会
基本方針の策定にあたって
PFI事業の推進は、社会資本整備の着実かつ効率的な整備を促し、国民に対して良質な公共サービスを提供するとともに、新産業・新事業の創出を通じた経済活性化、官民の役割分担の見直しに基づく新たな官民パートナーシップの形成、ひいては行政改革や財政構造改革、地方分権の推進、小さな政府の実現に繋がる。折りしも、わが国は国・地方を通じて極めて厳しい財政事情に直面していることから、PFI事業推進の必要性は高まっている。
政府は、公共サービスの提供のために国民の税金を有効かつ効率的に活用する責務を有しており、「民間でできるものは民間に委ねる」(行政改革委員会提言「行政関与の在り方に関する基準」<1996年12月>)という基本原則の下に、民間事業者の技術や資金等の経営資源や創意工夫等の活用によって効率的かつ効果的に行われる見込みがある公共施設等の設計、建設、維持管理、運営等については、これを積極的にPFI事業によって推進すべきである。
さらに、政府は、今後、PFI事業が円滑かつ積極的に行われるよう、PFI事業の障害となる諸制度等について積極的かつ速やかに改善・改革を図っていくなど、PFI事業の推進に向けた環境整備に継続的かつ不断に取組むとともに、自ら積極的にPFI事業の可能性を検討し、国の直轄事業においてPFI事業が行われるよう、努めるべきである。
また、所管が複数の省庁にまたがる複合的な施設などをPFI事業によって円滑かつ効率的に行うことができるよう、政府は、省庁の縦割りを超えた取組みを行わなければならない。さらに、地方公共団体においては、複数の市町村にまたがる広域的な事業連携も視野に入れて、PFI事業を推進すべきである。
- 民間事業者の発案による特定事業の選定その他特定事業の選定に関する基本的事項
◇ 特定事業の対象として取り上げるべきもの
- 特定事業は、本来公共施設等の管理者等が行うべき事業であって、民間事業者の有する技術や資金、経営能力およびその創意工夫等を活用することによって効率的・効果的に実施できるものを原則とすべきである。
ただし、経済社会の変化や事業の公共性、社会性から、今後、公的関与が求められる分野が生ずる可能性に十分配慮するとともに、また民間の創意工夫の発揮という観点から、対象事業や事業規模について細かく規定するのではなく、幅広く捉える必要がある。
- 民間事業者の創意工夫の発揮、公共施設等の管理を効率的かつ効果的に実施するためには、公共施設等の設計・建設のみならず、維持管理、運営などについても民間事業者に委ねていくことが有効であり、その点を十分配慮すべきである。
◇ 実施方針の策定、公表に当たっての基本的考え方
- 実施方針は、民間事業者の経営資源や創意工夫の十分な発揮など事業の効率的かつ円滑な遂行、多くの民間事業者の特定事業への参入、競争環境の整備、公平性・公共性の確保などに配慮して策定すべきである。
- PFI事業はわが国において新たに導入される社会資本整備の手法であることから、公共側、民間、住民等の関係者への理解を深め、PFI事業を促進し事業の円滑な実施を確保するため、できるだけ早期かつ具体的に策定すべきである。
- 公共施設等の管理者等は、実施方針を策定するにあたっては、事前に広く意見を求めるとともに、状況に応じて適宜詳細化するなど改善を図っていくべきである。
◇ 特定事業の選定についての基本的考え方
- 特定事業の選定にあたっては、事業期間を通じた公的財政負担の縮減が期待できること、または公的財政負担が同一の水準にある場合においても公共サービスの水準の向上が期待できることを選定基準とすべきである。
- VFMの算定には、財政上等の支援措置や公共側のサービス料の支払いのみならず、リスク移転、民間事業者からの税収等についても考慮した上で、ライフサイクル・コストによって評価することを原則とすべきである。
なお、VFMの算定にあたっては、当該事業の公共施設の管理者等にとってのライフサイクル・コストのみで評価すべきではなく、国民の税金が効率的に活用されるかどうかという観点から、国および地方財政を通じた、国民経済的な観点にも留意すべきである。
- 従来方式とPFI方式との比較検討にあたって、定性的な評価も取り入れるべきである。
- PFI事業の推進ならびに公共事業のアカウンタビリティの向上を図るため、公共側は、従来方式による公共施設等の建設・維持管理・運営に係る費用のデータ(遅延等のリスクも含む)の整理、蓄積、公表に努めるべきである。
◇ 民間事業者の発案があった場合の対応のあり方
- 民間事業者からの発案の受け付け体制(対応窓口、検討プロセス等)を整備すべきである。
- 民間事業者の発案を受け取った公共側は、事業案が一定期間内に実施方針の策定に至らなかった場合には、その結果及びその理由を発案者に通知すべきである。その結果および理由について不服がある当該発案事業者が、法21条3項に基づいてPFI推進委員会に意見を提出した場合、PFI推進委員会は、本件について調査審議を行うこととし、公共施設の管理者等に対して、必要に応じて意見を述べるべきである。
- 一定期間内に実施方針の策定に至らなかった民間事業者の発案事業については、これらの事業案の概要、公共側の判断結果や理由等について、発案事業者の了解を得たうえで、当該事業者の権利や企業秘密、その他正当な利益を害さない範囲において、公表すべきである。
- 民間事業者の募集及び選定に関する基本的な事項
- 民間事業者の募集及び選定にあたっては、一般競争入札を原則とするなど、事業の効率化を促進する観点から、有効な競争が行われるよう環境整備に努めることが極めて重要である。
民間事業者からの発案事業における民間事業者の募集、選定については、発案事業者に対して企画・提案料を支払った上で、一般競争入札を行うことを基本とすべきである。但し、特殊な技術や工法を必要とする場合など事業の優良性、特殊性を考慮し、随意契約も可能とすべきである。
- 公共側は民間事業者の入札コストの低減についても配慮すべきであり、標準的な契約条件の整理、多段階方式による民間事業者の選定などを行うべきである。
- PFI事業に係る入札手続は、当該事業の建設のみならず運営に至る広範囲に渡るほか、リスク分担の明確化といった点で、従来型の公共事業に係る入札手続とは異なることから、公募、募集の手続を行うにあたって時間的な余裕を十分確保するよう努めるべきである。
- 民間事業者の募集にあたっては、民間事業者の創意工夫等が十分発揮されるよう、公共側は、性能発注を行うこととし、具体的な仕様については必要最小限にとどめるべきである。
- 民間事業者の選定にあたっては、公的財政支出のみならず、サービスの提供水準や利用者料金、リスク分担など、その他の条件についても加味したうえで、客観的な評価を行うべきである(総合評価方式)。
- 民間事業者の選定にあたっては、3セク(国又は地方公共団体の出資又は拠出に係る法人<当該法人の出資又は拠出に係る法人を含む>)と純粋民間事業者間の競争条件を同一とし、公平性を確保すべきである。
- 民間事業者の選定を行った場合、速やかに、評価の結果、評価基準等を公表すべきである。但し、公表内容は、民間事業者の権利、企業秘密、競争上の地位等を害さない範囲に限定すべきである。
- 民間事業者の責任の明確化等事業の適正かつ確実な実施の確保に関する基本的な事項
- PFI事業の基本理念に鑑み、民間事業者の有する技術及び経営資源、ならびにその創意工夫等が十分に発揮されるよう、PFI事業の実施に際し、公共の関与を必要最小限とすべきである。また、公共の関与については、あらかじめ契約で明確にしておく必要がある。
具体的には、事業の実施に際し、公共側は、契約で定めた水準の公共サービスを民間事業者が実際に提供しているかどうかなど、契約に基づいた監視を行うことを基本とすべきである。
- 契約締結にあたっては、想定されるリスクを明確化した上で、官民それぞれが負担するリスクを明確に定めておくことが必要である。その際、コスト縮減等事業の効率化を図る観点から、当該リスクを最も適切に管理できる者が負担することを原則として、官民のリスク分担を取り決めるべきである。
- PFI事業で形成された資産の位置づけ、契約解除や事業が破綻した場合の対応、契約の解釈を巡って官民間で疑義が生じた場合等の措置(調停・仲裁等)について、契約において明確化しておくべきである。
- 実施方針において、当該特定事業に関し、選定事業の実施に伴う公共の関与、想定されるリスク及びその基本的な分担など、契約で記すべき事項をできる限り明らかにすることが必要である。
ただし、契約過程において、コスト節減およびサービス水準の向上の観点から、変更を加えることが望ましい状況が生じた場合には、適宜、実施方針の内容を見直していく必要がある。
- 法制上および税制上の措置ならびに財政上および金融上の支援に関する基本的な事項
- PFI事業に対し多くの民間事業者の参入を促し、ひいては競争を通じて、より効率的な事業の遂行を可能とするため、税制・財政・金融上等の支援措置を積極的に講じていく必要がある。基本方針では、その旨を明記するとともに、支援措置に係る政府としての方針をできるだけ具体的に提示すべきである。
- 財政上の措置について、PFI事業に対する地方公共団体のインセンティブを確保するとともに、多くの民間事業者の参入を促す観点から、PFI事業の実施に対し、公共事業と同水準の補助金ならびに地方交付税等が交付されることを基本とすべきである。
将来的には、公共施設等の建設に対し主に交付されている現行の補助金制度のみならず、事業期間に渡る運営費補助的な性格を有する補助金など、PFI事業の特性に応じた補助金制度についても検討していくべきである。
- 税制上の措置について、そもそもPFI事業は、これまで官が公租公課を負担することなく実施してきた公共施設等の整備を民間事業者を行うものであることから、既存の公共事業と事業条件がイコール・フッティングとなるよう、既存の公共施設と同等の扱いとすることを基本として、特に、PFI事業の遂行に係る税制については、整備施設の種類にかかわらず原則非課税とすべきである。具体的には、民間事業者がPFI施設を所有する場合、PFIの対象となる施設に係る登録免許税、不動産取得税、事業所税、特別土地保有税、固定資産税を非課税とすべきである。
その他、法人税に関し、設備の特別償却、割増償却制度の創設や事業終了時の無償譲渡により生じる損失に備えた準備金制度の創設など、できる限りの軽減措置を講じるべきである。
- 金融上の措置について、PFI事業については、公共性が高く、かつ、収益性の低い事業が多いと想定されることから、PFI事業に係る資金調達については、政府系金融機関による無利子融資等の円滑な融資が行われるための所要の措置を講じるべきである。
- 実施方針では、当該特定事業について、税制上の特例措置や補助金、融資、国有・公有財産の使用、その他事業用土地への配慮などの支援措置の概略をできる限り具体的に提示すべきである。
- 民間事業者による円滑なPFI事業遂行を担保するため、公物管理法もしくは業法等によって規定する事業分野において、民間PFI事業者の法的位置づけおよび民間PFI事業者が行い得る公共施設等の維持管理又は運営の範囲等について、実施方針において明記すべきである。また、民間事業者の創意工夫の発揮などPFIの趣旨に則った事業展開を行うにあたって、現行規定が障害となる場合には、積極的に規制緩和を行い、当該公物管理法もしくは業法等を必要に応じて速やかに改正すべきである。
- 国有財産・公有財産を活用したPFI事業が円滑に実施できるよう、特に管理および処分が厳しく制限されている行政財産について、普通財産への迅速かつ円滑な移行を含め、必要な緩和措置を講じるべきである。
- その他、法17条の規定に基づき、国および地方公共団体は、PFI事業において、民間事業者の技術の活用及び創意工夫の十分な発揮を妨げるような規制の撤廃・緩和を積極的かつ速やかに推進していく必要がある。
- その他特定事業の実施に関する基本的な事項
- 国および地方公共団体は、PFI事業の推進に向けて、民間事業者からの発案を待つといった受け身的な対応ではなく、自ら積極的にPFI事業の可能性を検討すべきである。
- 国は、PFI事業の円滑な実施が促進されるよう、地方公共団体及び民間事業者との協力体制を整備することに努める必要がある。また、地方公共団体が所管するPFI事業に係る全国的な推進組織を設立すべきである。
- 契約の解釈等を巡って疑義が生じる場合等が想定されることから、PFI事業に係る官民の法廷外調停・仲裁機関の設立など、公正かつ迅速な解決を可能とする制度を創設すべきである。
- PFI事業を行うにあたって、プロジェクト・ファイナンスなど、リスク・ヘッジに対応した新しい資金調達手法が行われやすいような環境を整備すべきである。
以 上
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