[経団連] [意見書]

『都市計画制度の見直しに当たって』についての意見

1999年11月10日
経団連土地・住宅部会

経団連では、『都市再生への提言』(1999年6月22日)において、新しい時代に求められる都市機能を戦略的に整備し、都市型社会にふさわしい都市への再生を図ることが、日本の再生につながると指摘した。
都市計画法の見直しにおいても、「都市計画の目的」(1条)に「21世紀の国土のグランドデザイン」で理念として示された多軸型国土構造の形成を反映すること、「基本理念」(2条)に環境の積極的な保全・創出といった概念を取り入れること、さらには「責務」(3条)にまちづくりNPOや中心市街地活性化法のTMOを位置づけることに加え、省庁再編を契機として、国土総合開発法、国土利用計画法、首都圏整備法などに基づく土地利用政策と都市政策の連携を強化し、広域的な視点から都市型社会にふさわしい都市ビジョンを描く必要がある。
また、関係法令を全体として見直した上で、体系全体として分かりやすい制度に再編することが必要である。例えば、都市計画区域においては、都市計画法を上位概念として、港湾、農地、林地などにかかわる法体系の調整を図り、重畳した規制を排すべきである。都市計画法自体についても、多様なニーズに柔軟に対応できるようにすると同時に、自治体間でいたずらにバラバラな運用がなされないよう政省令を含めて分かりやすいものに整理する必要がある。さらに、建築基準法と連動した見直しを行なうべきであり、例えば、建築基準法のいわゆる集団規定は都市計画法に組み込むなどの2法を併せた再編成が必要である。
こうした観点から、今般の「都市計画制度の見直しに当たって」において、目指すべき都市像を地域社会の合意として明確化すること、そのために住民に分かりやすい仕組みや住民合意の形成を容易にする仕組みを構築することなどを見直しのポイントとして指摘していることを高く評価する。その際、忘れてはならないのは民主的に形成された住民合意に基づく都市計画の執行には、私権の制限が伴うことであり、これをより明確化すべきである。
経団連土地・住宅部会としては、以下の諸点を含め、引き続き関係者の意見を十分に取り入れることを要望するとともに、今後とも経済社会情勢の変化に対応して、都市計画法を適宜、見直すことを要望したい。

  1. 「都道府県の都市計画に関するマスタープランの創設」について
  2. 都道府県が各市町村のマスタープランとの調整に基づき、それぞれの全体をカバーするマスタープランを策定することについては、より広域的な視点から目指すべき都市像を構築することが可能になるという意味において意義がある。特に、都市計画区域とその他区域の機能分担を明確にすることによって、市町村においてメリハリの効いた都市計画策定を可能とすること、環境保全の観点から、廃棄物処理施設、リサイクル施設などを広域的に整備すべき都市施設として明確にすることは重要である。
    ただし、都道府県のマスタープランの策定にあたっては、国土利用計画法および隣接する都道府県や圏域のマスタープランとの整合性に配慮する必要がある。特に、広域的な観点から整備すべき公共公益施設の設置については、国が何らかのかたちで関与し、その実効性を確保すべきである。また都道府県のマスタープランに基づく規制と市町村のマスタープランに基づく規制とが二重規制にならないようにすべきである。同時に、定期的な見直しの仕組みをビルドインすべきである。
    さらに、都市計画に時間の概念を導入し、整備目標年限を設定して、年限内に重点的に都市環境を整備すべき相当規模の地域を「都市再生戦略地域」として指定し、官民連携の下に、例えば都市防災の観点から問題となっている木造住宅密集地区に思い切った誘導策と集中的な投資を行なうことができるようにすべきである。

  3. 「都市計画区域外における開発行為及び建築行為についての考え方」について
  4. 都市計画区域外における開発行為及び建築行為について、法定手続を定めることについては評価できる。この際、現在、各地方公共団体において制定されている同趣旨の条例や要綱と重複規制にならないよう、条例等の改廃を含めた見直しが必要である。
    特に大規模な建築物等についての届出制度については、大店立地法(基準面積1,000m2)と趣旨が重複している。少なくとも大店立地法適用の建築物については適用除外にするなど、二重規制にならない措置を講ずべきである。また、都市計画区域内は用途地域、特別用途地区で対応しており、新たな規制を課す必要はない。

  5. 「線引き制度及び開発許可制度の見直し」について
  6. 線引きを地域の実情に応じて都道府県が行ない得るようにすることに賛成である。ただし、線引きの内容は経済社会の変化を勘案し、定期的に見直すことを明確にすべきである。
    市街化調整区域内すべてについて、一律の基準で開発を抑制するのではなく、区域の状況に応じて開発基準を弾力的に変更できるという考え方は望ましい。
    開発許可の技術的基準において、地域特性を反映することについては、基準が不必要に地域ごとに異なることにならないよう、強化できる項目は限定すべきである。また、地域特性に応じて規制を緩和することも積極的に行なうべきである。

  7. 「既成市街地再整備のための新たな制度」について
  8. 多様な建築計画とまちづくりを可能とする柔軟な新たな制度構築には賛成である。既存の地域地区等を再編整理するとともに、用途地域の制限を柔軟にし、容積率の割増しを行なうことや街区の統合への優遇策の策定等、まちづくりを促進するインセンティブを、公共施設・都市施設の整備水準に応じて積極的に付与する必要がある。その際、どの地区で何をしたらどのような特例が与えられるのかを明確にするとともに、多様な選択が可能となるような分かりやすいメニューの提供が必要である。例えば、地域の土地利用のあり方に影響を与える大規模な工場の用途転換(公共施設、集客・商業施設等に利用)の際には、地域の活性化の観点などから、規制の緩和を柔軟に講じることができるようにすべきである。
    地区計画制度を一般化し、区域要件を緩和するとともに、決定できる事項を多様化することは望ましい方向であり賛成である。地区計画において、一定水準以上の公共施設を整備する場合等に、用途地域等での規制内容を緩和することについては賛成であり、積極的に活用できるようにすべきである。この場合、現行の各種地区計画等の制度を統合するとともに、提案型の制度を積極的に認め、同区域内については一般規制の緩和を広範に認めることとすべきである。例えば、ミックスドユースのまちづくりを目的とした地区計画等を策定した場合には、従来の容積率規制や斜線規制などを大幅に緩和し、それに代えて環境基準、耐震基準など最低限必要となる規制を適用すべきである。

  9. 「環境問題等への対応のための制度の強化」について
  10. 環境の保全、都市防災の充実、高齢化への対応など新たな時代の要請に応じて、各種の社会的課題をマスタープランに明記し、考え方を明らかにしておくことは住民の合意形成を促すものと考えられ基本的に賛成である。とりわけ、廃棄物の処理施設・処分場の積極的な都市計画決定については、高く評価する。これは緊急的な課題であり、都市計画法の改正を待たずに、今からでもできるところから取り組むべきである。
    また、広く緑地を保全・創出するための制度については、徒な開発規制につながらないよう既存の緑地保全地区に対する規制等の再編整理を行ない、地域におけるバランスのとれた緑地の保全に努めるとともに、その実効性を高めるために民間へのインセンティブを付与する形で行われる必要がある。また、地域住民の発意と参加等に基づき公共が買い取り協議を行う制度の導入も検討に値しよう。

  11. 「都市計画の決定システムの合理化」について
  12. 都市計画決定手続において、アカウンタビリティを向上させ、市民参加の要請に応えることには基本的に賛成である。そうした観点から、地区計画の策定に地権者の要請を認めることや、地権者の一定割合の合意で地区整備計画の策定を要請できるとすることは評価できる。
    市民の概念、合意割合については、民主主義に基づいて健全なまちづくりを行なう上での合理的な基準とし、基本となる基準は国が定めるべきである。
    合意形成に当たっては、インターネット等を活用したり、審議会の開催頻度を高めたりして、迅速な合意形成を図るとともに、要請について、行政としての判断を迅速に分かりやすく示すことを明記すべきである。
    都市計画の専門家の知識、経験を有効に活用する仕組みの構築は評価できる。中心市街地活性化法のTMO組織に、地区レベルでの一定の権限を与えることも検討に値しよう。都道府県が都市計画の案を作成する際に、関係市町村に対して必要な資料の提供等を求めることは、当然出来るものとすべきである。
    また都市計画決定されたまま実現しない公園、道路がいつまでも放置されているために、周辺地域の建替えなども進まず環境を悪化させている例も見受けられる。都市計画決定された公共施設等は年限を区切って事業化することが必要である。
    なお、今後市区町村の合併を促進するための諸施策が講じられることとなると考えられるが、合併までの間において総合的な街づくりを進める上で、著しい障害となるような事態が生ずる場合には、国、都道府県はその解決に向けて必要な措置を迅速に講ずべきである。

以 上

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