税制改革、規制の緩和・合理化に加えて、居住環境改善に向けたハード面・ソフト面の対応、住宅資金の調達手段の多様化など住宅取得をしやすい仕組みづくりなど、よりよい居住空間の実現に向け、あらゆる施策を総動員すべきである。
現在、東京都区部での都市計画道路の進捗状況は約55%、未整備区間は800km(道路用地780ha)である。都市計画道路の整備は、沿道の高度利用を促進し、都心居住の推進などに資するほか、都市の防災機能の向上、渋滞の解消による人流・物流コストの削減、さらにはCO2の削減など環境負荷の軽減が見込まれる。
18km/h | 30km/h | |
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経済効果 | ─ | 4兆9千億円 |
乗用車等燃料消費量(LPG) | 約130百万m3 | 約100百万m3 |
〃 (軽油) | 約188万kl | 約148万kl |
〃 (ガソリン) | 約388万kl | 約303万kl |
排出ガス含有物(硫黄酸化物) | 約5,300t | 約4,000t |
〃 (窒素酸化物) | 約43,000t | 約33,000t |
〃 (二酸化炭素) | 約420万t | 約320万t |
公共投資の配分を思い切って見直し、都市計画道路など都市基盤の整備や、円滑な物流を妨げるボトルネックの解消(都心部通過交通のバイパスルート整備等)などに重点化することが求められる。整備に当たっては、目標期限を明示し、その期限の中で民主的プロセスを踏みつつ、計画の実現に取り組むべきである。その際、PFI(Private Finance Initiative)手法も積極的に活用することが望まれる。
また、交通機関のバリアフリー化、電線の地中化など、あらゆる環境において、どんな人々に対しても適合する「ユニバーサル・デザイン」のまちづくり、大都市問題解消に向けたオフィス分散、情報基盤整備によるスモールオフィス・ホームオフィス(SOHO)の実現、都心部へ乗り入れる鉄道駅等に自動車を駐車させ、公共交通機関に乗り換えることを促すパーク・アンド・ライドの試行、オフピーク通勤の推進など新しいソフト面による対応も推進する必要がある。
住宅金融公庫を中心とする融資制度にとどまらず、幅広く施策メニューを用意すべく、民間の長期住宅ローンや保険制度の改善、住宅を担保に老後の生活費などを借り入れ、契約終了時に不動産を処分するなどして清算するリバース・モーゲージの活用に向けた環境整備、さらには優良な借家の供給の促進に向けた不動産の証券化なども行なう必要がある。
なお現下の景気情勢を鑑みれば、当面の対策として、期間を限定して住宅金融公庫の貸出金利を思い切って引き下げることは大きな効果があると考えられ、その実行を求めたい。
国民の多様なライフスタイルを可能とする居住空間は、良質な住宅、活力ある都市、適正な土地利用が相互に連携することにより形成される。質の高い居住空間は、そこで活動する人々が機能性、利便性に加え、美しさや健康、安全性、快適性などを享受できる都市なしにはありえない。また、このような理想の都市づくりに向けて、土地が有効利用され、最も有効に利用しようとする主体が土地を容易に取得できるよう土地の流動化が促進されるべきである。
住宅・居住環境をめぐる諸課題を解決し、理想の居住空間をつくるためには、「国民の多様なライフスタイルを可能にする住宅政策の確立」を目指して、現在の規制、税制、政策金融といった政策手段を都市政策、土地政策と緊密な連携のもとに再構築することが求められる。そのためには、「住宅建設計画法」を抜本的に見直し、現行の『住宅建設五箇年計画』を総合性、実効性あるものに改めるべきである。
住宅政策について基本理念を明示し、その再構築を図ることは、国民の先行き不透明感を払拭し、縮み志向を転換させることにつながる。今こそ質の高い居住空間づくりへの国民の投資意欲を引き出す住宅政策の再構築が必要である。
経団連においても引き続き、都市政策、土地政策をめぐる課題などについて議論を深め、見解を明らかにしていきたい。