新内閣に望む

1998年7月30日
(社)経済団体連合会


新内閣は、強いリーダーシップを発揮して国民の間にある閉塞感、不安感を払拭し、現下の未曾有の危機を克服すべきである。内需主導型の景気の本格回復のためには、わが国経済の構造改革が不可欠であり、これはわが国のみならず、アジア・世界経済の安定的発展にとって重要である。経済界としても、この経済的困難を克服するため最大限の努力を払う。
以上の考え方に立って、下記の重要施策を早急に断行すべきである。


  1. 金融システムの安定・強化と不良債権の早期処理
  2. システミックリスク防止のため、大蔵省、日本銀行、金融監督庁、預金保険機構の役割・責任分担を明確化し、連携を強化すべきである。このため、大蔵大臣を長とする常設委員会の設置も検討すべきである。金融機関も第II分類債権をリスクに応じて細分化して、必要な引当てを行ない、出来る限り早期に自主的にディスクローズするとともに、行政も協力して金融の再編・強化の将来像作りに取り組むべきである。
    また、ブリッジバンクがモラルハザードを起こさないよう関連法制を整備するとともに、不良債権処理のための臨時不動産関係権利調整委員会、サービサー、競売等の関連法案を臨時国会で早期に成立させるべきである。

  3. 税制の抜本改革の推進
  4. 需要と供給の両側面から改革を推進するため、法人税の実質減税と個人所得税の制度減税を一体として実施すべきである。個人所得課税については、最高税率の65%から50%への引き下げを含む国民各層にわたる所得税の制度減税を実施するとともに、法人課税については、大幅な実質減税と、地方法人課税の簡素化により、実効税率40%を早期に実現すべきである。併せて、企業の経営形態の多様化に対応した連結納税制度を導入するとともに、サラリーマンの老後の生活を支える企業年金について、積立金にかかる特別法人税を撤廃すべきである。

  5. 効果的な財政の出動
  6. 内需拡大に寄与するためには、公共事業における無駄を徹底的に排除した上で政策ニーズの高い分野へ効率的、重点的に配分すべきである。具体的には、都市計画道路の着実な整備、高コスト構造の是正に資する物流インフラのボトルネック解消、次代を担う児童・生徒の情報活用能力向上を図る教育の情報化、行政コストの削減やサービス向上を実現する行政の情報化等を推進すべきである。
    また、住宅投資は内需拡大の牽引役であり、国民生活の質の向上を実感させる住宅政策、とりわけ住宅減税の拡充を行なうべきである。

  7. 規制の撤廃・緩和と小さな政府の実現
  8. 内需拡大につながる規制撤廃・緩和を重点的に推進するため、『規制緩和推進3か年計画』の前倒しならびに新規要望の掘り起こし・追加を行なうべきである。中でも都市再開発を促す規制緩和、工場等制限法の抜本的見直し、定期借家権の創設により、大都市の土地の流動化・有効利用、市街地の活性化を図ることが重要である。さらには、通信・放送の融合分野における規制緩和による新サービスの拡大を図るべきである。
    また、中央省庁等改革基本法を着実かつ速やかに実施するとともに、地方行革の一層の推進を図り、国・地方を通じて小さな政府を実現し、国民負担の抑制を図るべきである。

  9. 年金制度の再構築
  10. 公的年金については、基礎年金部分は、国が高齢者にとって最低限の生活保障を行なうという目的に沿い、間接税による賦課方式に移行すべきである。報酬比例部分は、基礎年金部分の上乗せとして、現役時代の生活水準の一定割合を確保することを目的とし、その財政方式は積立方式を原則とすべきである。
    企業年金については、事業主拠出型、勤労者拠出型をともに包含する確定拠出型年金制度を導入すべきである。併せて、ポータビリティを確保するための「個人勘定(仮称)」制度を創設すべきである。

  11. 持合株式の交換制度の導入
  12. 慢性的な持合解消による需給関係の悪化は、株式市場の長期低迷要因になっているだけでなく、わが国経済活性化の大きな足枷となっている。持合株式の受け皿整備ならびに自己株式の消却促進により株式市場の活性化を図るため、公開会社を対象とした自己株式の相対による取得制度および交換で取得した自己株式の消却に係る税制上の特例を制度化すべきである。

  13. 戦略的産業技術政策の構築
  14. 産業技術力の強化を梃子として、産業フロンティアを切り拓くため、戦略的中核分野についてコンセンサスを速やかに形成し、人材育成、国家プロジェクトの推進等に政策資源を重点投入すべきである。また、研究開発の主流を占める企業の研究開発活動を促進する観点から、研究開発支援税制、政府調達等のインセンティブを拡充すべきである。さらに、研究開発成果の円滑な産業化を支援するため、知的財産制度の拡充・改善を進めるとともに、必要な施策を総合的、戦略的に展開すべきである。

  15. 新たな雇用機会の創出
  16. 経済構造改革の断行が更なる雇用情勢の悪化をもたらすことのないよう、労働者派遣事業等の規制緩和、税制改革、リスクマネーの供給等を一体的に展開することにより、新産業・新事業を育成するとともに、既存産業の高付加価値化を進め、新たな雇用機会を創出すべきである。こうした事業環境の整備は、諸外国からの対日直接投資の拡大を通じた雇用の増大に貢献する。

  17. アジア経済危機への対応
  18. アジア諸国に対して、その将来的発展のため、貿易・投資の自由化路線を堅持するよう求めることが重要であり、わが国としても、アジア諸国の構造改革努力を継続的に支援すべきである。併せて、円の国際化を進めるとともに、円レートを安定化させるべきである。

以 上


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