短期金融市場の整備と円の国際化

1998年6月16日
(社)経済団体連合会


昨年のアジア通貨・経済危機の背景に、ドルへの過度の依存が指摘されている。また、来年1月からの欧州単一通貨ユーロの発足に伴い、円の地盤沈下が懸念されており、日本版ビッグバンを推進する中で、日本経済の地位に見合った円の国際的利用を高めることが求められている。
こうした内外の要請に応えるには、第一に円の信認を増大させる必要があり、そのためには日本経済の構造改革を早急に進めなければならない。特に、グローバル・スタンダードに合うような徹底した規制の緩和・撤廃、税制改革、金融システム改革などの実現により、一刻も早く経済力の強化を図る必要がある。
第二に国内金融市場を投資市場として魅力のあるものとして、円の保有を高めなければならない。中でも巨額の円資金取引が実際に行われ、内外取引の接点になっている短期金融市場を、金融ビッグバンの一環として、より市場原理が働くよう整備していく必要がある。
円の国際化を推進するためには、円建て取引の増大、長期金融市場の整備などさまざまな条件整備が必要であるが、今回、われわれは短期金融市場の整備に焦点を絞って、緊急に政策提言することとした。これらの政策を実現し、内外に開かれた厚みのある使い勝手の良い短期の円市場を整備していくことで、円の国際的地位は自ずと高まっていくものと期待される。

  1. 短期金融商品の商品性の改善
    1. FB(外国為替資金証券など政府短期証券)
    2. FBは、発行レートが公定歩合を下回る水準に設定されており、ほぼ全額が日銀引受となっている。海外投資家から期待されるリスクフリーの投資対象商品の潤沢な供給、財政の日銀依存からの脱却、新日銀法にふさわしい日銀の独立性の確保、短期金融商品の指標金利の確立などの観点から、現行の定率公募残額日本銀行引受方式を早急に市場実勢レートを反映した公募入札方式に変更すべきである。
      なお、公募入札方式への変更に伴う為替市場への介入など技術的問題については、日銀による一時的なファイナンス面の工夫を含め関係当事者が実務的に解決すべきである。

    3. CD(譲渡性預金)
    4. 我が国のCDは、指名債権譲渡方式によっているため、譲渡の都度、公証人役場で押印手数料を支払って確定日付を取得する必要があり、煩雑である。使いやすい電子公証の早期導入や発行体サイドによる預かり保管等により、この手続きを簡素化すべきである。

    5. CP(コマーシャル・ペーパー)
    6. CPについては、規制緩和が進み、企業の直接発行なども認められるようになったが、欧米と比べると依然としてインフラの整備が十分でなく、企業の利用は限定的になっている。
      現在CPは約束手形として手形法の規制を受けており、デリバリー上の不便さや印紙税の負担を感じている企業は多い。こうした制約を排除するために、新しい立法措置を講ずるべきである。また、券面なしで流通するような保管・振替の決済システム整備が必要である。

    7. レポ(現金担保付債券貸借取引)
    8. 我が国のレポは、債券の消費貸借取引の枠組みの中で行われており、債券現先取引を主体とした米国のレポ取引とは会計制度上の取扱いが異なっているため、レポ取引のグローバル化を進めるにあたって障害となっている。また、有価証券取引税撤廃に伴い現先取引がレポ取引に類似してくることになるが、現在の現先契約書ではリスク管理が不十分であるという問題もある。これらの問題を解決し取引のグローバル化を一層進めるために、現先取引とレポ取引の融合をふまえた包括的な基本契約書の作成をはかる必要がある。更に、取引の円滑化のために決済制度の一層の整備をはかることも必要である。

  2. 関連税制の見直し
    1. 源泉徴収課税の見直し
    2. 欧米では、本人確認など一定の条件を満たせば非居住者には課税されない。我が国では非居住者でも、短期国債などの割引債は、利子にあたる償還差益の18%が源泉徴収される。外国中央銀行には取得時還付、外国民間金融機関には償還時還付という特例により税負担は軽減されているものの、手続きが煩雑であり、海外投資家の購入の阻害要因になっている。諸外国とのイコール・フッティングの観点からは、非居住者への源泉徴収課税は本人確認等を条件に撤廃すべきである。
      また、レポについても、非居住者の受け取る債券利子、現金担保付利金利への源泉徴収が流通の阻害要因になっており、租税特別措置法の8条を非居住者に援用して課税不適用にするか、課税を撤廃すべきである。

    3. 有価証券取引税等の前倒し撤廃
    4. 既に、平成11年末までに廃止するとの方針が閣議決定されているが、一刻も早く前倒しで撤廃する必要がある。

以 上


日本語のホームページへ