中央省庁再編に対する提言(科学技術関係)

―国民のニーズに応える科学技術行政システムの確立に向けて―

1997年7月23日
(社)経済団体連合会


わが国が内外の急激な情勢変化へダイナミックに対応していくうえで、行政組織の重点化、スリム化を実現させることは必須の課題である。既にわが国の発展基盤である科学技術の振興については、1995年の科学技術基本法制定によって「科学技術創造立国(科学技術の水準の向上を図ることにより、経済社会の発展、福祉の向上、世界の科学技術の発展、人類社会の持続的な発展に貢献する)」を目指した取組みが始まっている。この法の主旨に則り国民のニーズに応える具体的な科学技術戦略の立案と、その強力な推進のための研究開発実行体制の再構築によって科学技術基本計画を責任もって実行できる省庁再編を期待する。

  1. 社会的経済的ニーズに即した科学技術戦略を打ち立てること

    産業界は、21世紀を迎えるにあたって、国全体としての具体的な科学技術戦略の構築の必要性を痛感している。先般、経団連で実施した科学技術行政に関するアンケート調査でも、主要企業84社の研究開発担当役員のうち80社が科学技術戦略のない日本に強い懸念を持っていることが示された。
    科学技術戦略とは長期的である一方、社会的経済的ニーズ、科学技術の進歩、国際社会の変化などに柔軟に対応できるものでなければならない。また、今日の科学技術が取組むべき諸問題は、従来のように単に自然科学のみに立脚するものではなく、広く人文・社会科学をも含むものである。しかるに現行の科学技術行政は、初めに各省庁縦割りの施策があってこれを科学技術会議(議長 総理大臣)が総合調整する仕組みであるため、国全体としての具体的な科学技術戦略を構築できる体制になっていない。また、科学技術会議は国民に開かれた仕組みになっておらず、メンバーも国民各層の声が必ずしも十分反映される構成にはなっていない。研究開発の実行面においても、各省庁の異なった方針によってその研究開発分野全体の発展が阻害される、研究機関相互の人事交流が不活発である、重要度に応じた資金配分ができない、研究開発関連の予算が細分化されており基礎から応用に至る一貫した資金配分が行えない、今後増えてくる省庁間・分野間にまたがる研究テーマに対応したいわゆる「プロジェクト」方式の取組みがしにくいなど、縦割り行政、短期的行政の弊害が指摘されている。
    このままでは、わが国の科学技術は社会の動向から乖離し、本来の力を発揮できぬまま宝の持ち腐れとなりかねない。わが国自ら社会的経済的ニーズに即した目標を設定し追求すべき時代に適合した仕組み作りが必要である。

  2. 科学技術基本法、科学技術基本計画を責任もって実行すること

    こうしたわが国の科学技術推進体制を抜本的に見直す作業が現在進められている。学術分野や産業分野などさまざまな分野でボーダーレス化、グローバル化が進んでいるなかで、1995年に科学技術基本法が制定され、世界のフロントランナーの一員として「科学技術創造立国」を目指すという方針が打ち出された。1996年には科学技術基本法に基づいて科学技術基本計画が策定され、その冒頭に「社会的、経済的ニーズに対応した研究開発」の強化が指摘された。現在、基本計画に盛られた任期付き任用制度の導入などが実行に移されている最中である。
    産業界は、科学技術を振興することによって、次代を担う若者に夢を提供し高い志を抱けるようにすること、地球環境・エネルギー問題など人類の生存に係わる問題の克服、日本経済の発展の維持、質の高い豊かな国民生活の実現の可能性が大きく拡がると考えている。そのためには、上述のように科学技術基本法ならびに科学技術基本計画を着実に実行するとともに、さらにそれを発展させて、社会的経済的ニーズに即した研究開発目標を設定することと、ボーダーレス時代にふさわしい科学技術行政システム、研究開発推進システムの確立などに取り組んでいく必要がある。研究開発の主たる担い手である大学、民間企業、国公立研究機関などがそれぞれの役割を分担し、相互交流を通じて切磋琢磨できるシステムを構築することが必要である。

今般の中央省庁再編にあたっては、下記にある通り、科学技術の政策立案・総合調整機能の強化と、研究開発実行体制の改革の第一歩として、国立試験研究機関等の役割の再認識と統廃合を果敢に進めるべきである。その際、研究者の創造性や民間企業の活力が損なわれることのないよう十分注意する必要がある。

  1. 科学技術の政策立案・総合調整機能の強化

    科学技術は、行政改革会議で議論されている4つの国の機能、「国家の存続」、「国富の確保・拡大」、「国民生活の保障・向上」、「教育や国民文化の継承、醸成」のいずれに対しても重要な役割を果たしている。したがって、科学技術行政を総合的に推進し、科学技術基本法ならびに科学技術基本計画の立案・実行を司る担当大臣および部署を設置すべきである。そこでは、社会的経済的ニーズに即した科学技術戦略の構築、実効ある研究開発の総合調整および実施状況の評価、研究開発で得られた知見の国家目標および国民への適切なフィードバック、研究人材の育成および内外の科学技術関係の調査などの機能が求められる。たとえば、科学技術を総合的に推進する専任部署を設置して科学技術庁をはじめ通産省、文部省等が持つ研究開発の企画調整機能を集約することが考えられる。
    また、科学技術戦略の構築にあたっては、科学技術会議に政策提言・勧告の機能を付与し、わが国が直面する諸課題への取組みに必要な科学技術の役割を具体的に設定し、それを行政に反映できるようにする。その際、従来の科学技術関係者だけでなく、21世紀を担う若手研究者や海外有識者、社会科学系有識者も含め、国民各層の声が反映されるようにすべきである。

  2. 国立試験研究機関等の統廃合

    社会的経済的ニーズに即した科学技術戦略を円滑に推進するためには、国の研究開発実行体制も、国の果たすべき役割を踏まえて、国民の理解が得られる形で見直す必要がある。国立試験研究機関など各省庁に付属する研究機関は、それぞれの省庁毎、研究機関毎に改善努力が続けられているが、限界がある。そこで、従来の省庁の枠にこだわることをやめ、国全体から見た各研究機関の役割を見直して思い切ったスクラップ・アンド・ビルドを行うこと、研究業務に適した柔軟な組織運営により研究者側が能力を十分発揮できるようにすること、大括りにグルーピングすることにより研究の効率を高めかつ流動性の向上に資すること、民間だけではできない研究開発に弾力的効率的に取組めるようにするために独立行政法人(エージェンシー)化することが必要である。
    まず、各国立試験研究機関等の実態を早急に調査し、国立試験研究機関等のスクラップ・アンド・ビルドの方向性を示すべきである。

以 上


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