企業結合規制の抜本的見直しに関する提言
1997年 1月28日
(社)経済団体連合会
世界的な大競争時代の到来のなかで、日本企業が将来にわたり国内にその基盤を維持しつつ国際競争力を保持していくためには、規制緩和をはじめとする経済構造改革を大胆に推進するとともに、経済・社会の変化や産業の高度化に対応して、企業組織を柔軟に改編させていかねばならない。
しかしながら、わが国の独占禁止法は、純粋持株会社の禁止・大規模事業会社の株式保有制限をはじめとする企業結合規制において欧米諸国に類例のない過剰な規制であるととともに、煩瑣な届出等を求めるものとなっており、次の3つの視点から独占禁止法の企業結合に関する諸規定および各種ガイドライン(審査事務処理基準等)を抜本的に見直すべきである。
- 実体規定および運用の改善
世界的な大競争時代に入り、欧米諸国の競争政策の運用は、国際市場における熾烈な競争を意識したものに変化しており、積極的に大規模な企業結合を容認している。わが国においても、このような国際的潮流に即応した、実体規制・手続規定の改正およびガイドラインの見直しを含む運用の改善を早急に行うべきである。
- 過度の予防行政から弊害規制へ
独禁法による企業結合に関する規制については、現在の過度の予防行政を改め、「弊害規制」によることとすべきであり、実質的な競争制限の蓋然性がない限り、自由な企業結合を認めるべきである。
- 手続規制の見直し
独禁法による企業結合規制全般にわたって、競争阻害性の有無にかかわらず一律的・外形的な手続規制がとられているため、企業に対して過重な事務負担を求めるものとなっている。各種届出制度の廃止又は大幅な裾切り要件の導入・引上げが必要である。
記
- 純粋持株会社の容認
実際の競争阻害性の有無に拘わらず一律に持株会社を禁止する独占禁止法第9条を早急に改正し、事業支配力の過度の集中とならない限り持株会社の設立を認めるべきである。また、持株会社の設立、分社化による持株会社への転化に係わる公正取引委員会の関与も必要最小限とすべきである。
- 大規模事業会社の株式保有総額規制の廃止
競争への影響について斟酌することなく、一律的・外形的に株式保有の総量を規制する現行第9条の2は、企業が事業多角化のために子会社を設立し、また、合併・買収等、積極的な事業展開を進めていく上での障害となっている。また、分社化経営への移行等の経営戦略を遂行する上で大きな支障となる。したがって、第9条の2は廃止すべきである。
- 株式所有年次報告書制度の簡素化
現行報告制度は、報告会社および報告対象についての裾切り基準は昭和52年以来見直されておらず、企業支配とは関係のない株式保有についても一律に報告義務の対象とされており、報告側・審査側双方にとって過大な負担となっている。
したがって、現行の報告書制度の報告会社および報告対象株式を、以下の通り簡素化すべきである。
報告会社については、総資産額20億円超という基準額を200億円程度に引き上げるべきである。また、報告対象株式についても、総資産10億円を超える会社の発行済株式総数の10%を超える株式保有について、その保有割合が一定比率に達した場合にのみ、年1回届け出ることとすべきである。
なお、個別の株式取得に係わる届出制度は、事前、事後を問わず企業に過度の負担を課すこととなる惧れがあり、その導入には反対である。
- 役員兼任届出制度の廃止
役員兼任は単独で行われることは少なく、通常、株式保有関係を伴うものであり、株式保有関係を把握していれば十分である。
したがって、本届出制度は廃止すべきである。
- 合併・営業譲受規制の緩和
- 届出制度の見直し
現行制度では、全ての合併について、届出義務が課されているが、実質的に競争制限となるおそれがない合併については、届出側・審査側双方の負担軽減の観点から、以下の合併については、事前届出を不要とすべきである。
- 実質的に同一企業と認められる会社間(親子会社・兄弟会社間を含む)の合併
- 現行の簡易届出基準を満たすもの〔各合併当事者の総資産(但しそれらの会社の発行済株式総数の25%以上の株式を所有する会社の総資産を含む)が100億円未満の場合等〕
また、営業譲受に関しても、上記(i)、(ii)にあてはまる企業間の営業譲受については事前届出を不要とするとともに、事前届出を要する「重要部分」についても、譲渡対象部分にかかる年間売上高が1億円を超える場合との基準を撤廃するとともに、譲渡会社の年間総売上高の10%(現行審査事務処理基準では5%)を超える場合に限るべきである。
- 合併・営業譲受に関する審査事務処理基準の見直し
企業合併が認められるか否かの判断に際しては、個別製品・サービスごとの国内市場シェアを中心に審査がなされているが、国際競争にさらされている分野における合併については、国内市場ではなく国際市場における競争を前提とした判断をすべきである。
また、現行審査事務処理基準については、重点審査対象選別基準である国内市場シェア25%の基準が、合併が容認されるか否かの実質的基準となっているとの指摘がある。
合併が認められるか否かの判断にあたっては、市場シェア等の数値的指標だけでなく、シェア以外の重要な質的要素、例えば、国際市場での競争、新規参入の可能性、合併による企業および国民経済の効率性の向上などを十分に勘案すべきである。また、これらの各判断要素のウェイトづけを明らかにし、企業による予測可能性を高めるべきである。
以 上
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